建築を学び、個々の“場所”が持つ性質をテーマにインスタレーション作品を制作するマシュー・ロジア。伊勢で触れた神道の考え方、建築へのアプローチは今世界中で論じられているさまざまな課題にも通じると感じたと話していました。レジデンス終盤、伊勢での二週間の体験について話を聞きました。

伊勢では“再生”が一番の大きな発見だった

普段は公共の場での作品を多く手がけ、その場所や都市に根ざした作品をつくっています。建築を学んでいたこともあり、ある土地に根付いた伝統や遺産や歴史の物語を掘り起こして、それが現代の文化や建築、都市形成にどのような影響を与えているか、どのように場所のアイデンティティが確立されていったのかを探ることに関心があります。

伊勢神宮を訪れて、神道や伊勢における建築のアプローチに触れ、世界中で議論されているさまざまな課題に通じる気づきがたくさんありました。世界では今、気候変動をはじめ、生態系への影響など、自然界と人間界がどのようにつながって機能しているのか、未来の建築のあり方などについていろいろな議論がされています。伊勢に根付く考えから、それらの課題に一つの側面からだけでなく包括的な視点でどう対処するかに対して大きなヒントが得られました。

伊勢神宮の式年遷宮における“継承”という考え方はここへ来て発見しました。20年毎にご社殿や御装束神宝をはじめすべてを新しくして前と同じようにつくり変えるプロセスを通して、すべてが再生されます。再生を繰り返すことで、永代にわたってそのための技術の継承や素材の確保がされるという考え方はとても納得がいくものでした。そして、そのためには持続可能なもの、すなわち環境に負荷を与えない、自然界とのバランスが取れるものを使う必要があるのです。環境に負荷を与えないシステムが必要なだけでなく、そうした材料を扱うスキルが必要です。建て直す儀式が文化や哲学の一部を担っていると感じました。遷宮の理由はわからないといいますが、すでに1000年以上前にサスティナビリティ(持続可能性)のためには“再生”が必要だという意識があったのではないでしょうか。それは建築に石ではなく木材を使うことにも反映されていると思いました。

また、神社というものが地域特有の場所に根ざしたものを祀るために建てられているということも面白いと思いました。日本全国には10万以上の神社があり、(自分の土地であれば)誰でも神社を建てることができるそうですが、それぞれがその土地と強い関係性を持っていると聞いて、とても興味深く感じました。

伊勢はとても独特な場所でした。自然や環境保全のアプローチ、建物のケア、地元文化の継承など、ほかの地域にはない独自のものを持っていると感じました。それは伊勢神宮の遷宮の慣習からくる再生の考えと強い結び付きがありながらも、神宮の祭りごとに限ったことではなく、伊勢の人々の生活にも表れていて、バランスを崩さないようにするということがすべてに浸透していると感じました。伊勢でたくさん人に話を聞きましたが、そうした人々の話もいつも“再生”に戻っていくのです。永遠に残るものをつくるのではなく、その土地に根差した持続可能なシステムや文化をつくることで大事なものの継承が永遠に続くことを目指すということですね。

今回伊勢での時間は、とても恵まれた環境で異なる文化に没入することができました。たくさんのプログラムが細かいところまで見たいという欲望を叶えてくれて、本当に素晴らしいインスピレーションを受けました。ここで過ごし目にしたもの、聞いたものをつないでいって、なんとか理解しようと思っていますが、ある意味、圧倒されてしまって、まだパズルのピースがバラバラにある感じです。これらをこれから組み上げていきたいと思います。

お茶のたて方を習っている男性
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 Ise City, British Council Photo by Hakubun Sakamoto

プロフィール:マシュー・ロジア(Matthew Rosier)

インスタレーション・アーティスト。過去の記憶、現在のゆがみ、将来のビジョンを用いて我々を取り巻く環境を拡張するような作品を手掛けている。建築を学んだ背景から、場所の使われ方、誰が場所を使うか、場所の歴史や未来、場所は現代社会について何を伝えるかなど、「場所」が重要である。ひとつの場所が日々経験することを誠実に記録し、再現あるいは表現し、人々が驚く斬新な方法で提示して場所の経験について考えてもらうことに関心を持っている。

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