一卵性の双子の姉妹で、写真や動画によるインスタレーションなどを共同制作しているジェーン・アンド・ルイーズ・ウィルソン。レジデンスでは、以前滞在した韓国での体験とつながる意外な発見がありました。
単独ではなく関係を構築すること、そこにとても共感した
ルイーズ:ジェーンと私は30年以上にわたってコラボレーションを続けています。
昨年韓国の済州島で3か月の滞在制作を行いました。それが私たちの初アジアでした。韓国と日本は密接な関係があり、その両国の文化を体験したいと思っていたところ、伊勢市でのレジデンスを知りました。済州島には古い神社があり、“ヘニョ”という海女たちがいるのですが、伊勢には神宮があり、海女もいると知って、まさに絶好の機会だと思いました。
ジェーン:まず伊勢神宮の伝統と美には圧倒されました。伝統が未来を見据えていることも驚きでした。伊勢神宮に入る前には、手水をはじめいくつかの作法があり、それをひとつずつ体験していくことで、必ずしも言葉では語られない目に見えないことや、神とは何かについて考えさせられました。
さらに、ニコルが地元の聴覚障害者たちと行ったダンスのワークショップも、言葉によらないコミュニケーションで、神宮での経験のあとだったこともあってひときわ感動的でした。
ルイーズ:初日に訪れた二見浦の夫婦岩が印象的で、何度も足を運びました。大小2つの岩が注連縄でつながれていて、てっぺんに鳥居がある様子は、この土地のシンボルのような光景です。韓国でも溶岩跡の岩場が信仰の場になっており、夫婦岩も同じコンセプトを体現するものだと思います。
滞在中に台風も初めて経験しました。自然の脅威に晒される日本の暮らしを目の当たりにしました。
ジェーン:台風の翌日夫婦岩に行ってみると、五重に編まれた太い大注連縄が切れてしまっていました。ショッキングな光景でした。しかしその3日後に再び行くと、一本だけでしたが再び注連縄でつながれていたんです。2つの岩を注連縄がつなぐ光景がいかに視覚的に重要なものであるか、しかも台風からたった3日ですでにつながっていたことに、この土地の人々と自然のつながりを強く感じました。
ルイーズ:つながりで面白いと思ったのが、外宮と内宮の空間、そしてこれから遷宮される新御敷地(古殿地)を見たことです。いま社殿がある場所とこれから移る場所、片方だけが存在しているのではなく、お互いがあることでバランスをとっているのだと思いました。
ジェーン:単独ではなく関係を構築すること、他との関係性の中に自身が存在すること、それが所謂宗教的な一つの教義を唱えることとかけ離れていると感じました。
ルイーズ:私たちも双子で共同制作しているので、これにはとても共感しました。しかも静的に固定されておらず、20年ごとに2つの地の間を移動するのです。とても深い意味があると思います。
ジェーン:しかも完全に対称ではない、そのことからより何か強力なものを感じました。絶対的な完璧を求めているわけではない、しかしながら他にはない独自性がある。少し混乱するのですが、ひとつのものに固定されないからこそより豊かなものを見ている。その信仰のシステムは、独自の道を歩いていると思います。
ルイーズ:また儀式の力というものを感じました。到着した当初は、具体的な成果を達成するために何をすべきかと考えていましたが、すぐに体験にまかせたほうがいいと思うようになりました。あまりにも深く豊かな文化だと気づいたからです。出会う文化の奥行きの深さ、それが儀式の精神や人々の所作のひとつひとつに現れるのを目にすることは、とても興味深いものでした。
ジェーン:台風一過の朝、外宮を訪れると、社殿の正面の御幌が強風で激しくまくりあげられていました。御幌の向こう側に広がるのは無の空間でした。それを見た時に、日本ではいろいろなものが覆われていることを表しているかのようだと感じました。たとえばこちらの姿を映すはずの鏡も覆われている。それはつまり、自分自身や周囲にあるものに集中するということではなく、今ある“時”の中に自分を置き、その瞬間を感じることなのです。
それは神宮で体験した儀式やすべてのことにも通じると思いました。そしてホテルの鏡でさえ、それは見るための鏡、姿を映すための鏡ですが、布で覆われていました。感慨深い出来事でした。