アーティストであり、劇作家、研究者でもあるシーズン・バトラーは、日本文化について数年前から学んでいたといいます。

常に体験を通して学んだ2週間だった

今回の伊勢市アーティスト・イン・レジデンスの公募は、ここ数年私がもっとも興味を惹かれるものでした。日本文化については数年前から学んでおり、神道の信仰や慣習の中心にある思想と、私が慣れ親しんだ哲学との間に共通性を見出していました。多少の知識はありましたが、たとえば神道の神は英語でも“Kami”と言うように、多くの神道用語にはそれに対応する英語がありません。海の向こう側から学べることは限られており、本からでは学べない知識以上のものを得るためには、実際に日本を訪れて研究したいと思っていたので、今回の公募は絶好のチャンスとなりました。

2週間のレジデンスで私が経験したことすべてに圧倒されました。たくさんのプログラムが用意されていて、同じ場所、同じコンセプトに異なる体験から何度も立ち返っていくようでした。体験の中には直接翻訳できないコンセプトも多々あり、「神嘗祭の夜を体験したら私のいわんとすることがわかると思います」と言われたこともありました。常に体験を通して学んだ2週間でした。私はいま、一般的な考え方から少し外れたようなアイデアに興味を持っています。たとえばユートピアやディストピアといったバイナリーを超えて、新しい考え方に出会うことが必要だと考えます。今回のレジデンスプログラムのようにこれまでと違う考え方に触れる機会はとても重要だと思っています。

訪れた場所では、いつもさまざまな出来事や人々との出会いがありました。特に地元のクリエーターとのセッションで、作家の千種清美さんとの出会いはとても大きいものがありました。ユートピアとは何か、再生と継続についての捉え方や、現代における彼女の活動は、私の取り組むテーマとも通じるものがあったので、彼女との交流は今後も続けたいと思います。また、一緒に参加したアーティストたちも刺激的でした。異なるバックグラウンドを持つメンバーが参加したことで、会話の中から思いがけない方向へ進むきっかけを得ることができました。

個々での探索時間に古い陶器屋に立ち寄ったときのことです。築300年ほどの古い建物の奥へ奥へと案内されると、その一番奥で、たまに学者も研究しに来るという古い文字の書かれた和紙の書がありました。それらの古い貴重な書物を目にして、それまで深いところで体験してきたさまざまなものが沸点に達したような感覚を覚えました。それはとても印象深い体験でした。

また神宮に使われているヒノキと杉の香りには魅了されました。手で切った木の感触、香りと場所の記憶の関係は、実に予想外のものでした。

木片を触っている女性
©

Ise City, British Council Photo by Hakubun Sakamoto

プロフィール:シーズン・バトラー(Season Butler)

作家、アーティスト、劇作家、講師。著作、学術研究、パフォーマンスを通して、後知恵や希望が有する機会と落とし穴、大人になり未曽有の変化を遂げることについて考察し、狡猾さを増す未来に期待を持つことの意味を問いかけている。

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