大阪府茨木市立南中学校では、英語科の加配教員を活用して、スピーキング活動を強化しています。松村陽子教諭は、全学年で週1回のティームティーチングを行っています。ここでは松村教諭が担当した中1のスピーキング(やり取り)の授業についてご紹介します。ペアでのスモールトークに始まり、ターゲットとなる表現の練習やグループでのアクティビティを中心に授業が組み立てられており、至るところで「足場掛け」がたくさん提供されていました。授業のあちらこちらに見られたたくさんの工夫と、授業後に伺ったお話を合わせ、松村教諭の実践をご紹介します。

ミニトークで教師がモデルを見せる

新学習指導要領では、日常的な話題について考えや気持ちを伝え合う力の育成が求められます。松村陽子教諭が担当する授業では、即興的なやり取りに力を入れ、授業の冒頭でミニトークを取り入れています。

中1では簡単な会話、例えばクエスチョン&アンサーから始めて、2学期に入れば30秒くらい続ける、次に40秒と徐々に難易度を上げ、学年が上がるに従い目標を高く設定しています。また、話題も毎回変わりますが、授業の流れだけでなく、生徒の思考が円滑になるよう、その日の授業内容と関連させています。見学した中1の授業では、この日の題材「買い物」に関連させ、「好きな店」について尋ね合いました。適切な支援(足場掛け)を提供するために心がけていることについて、松村教諭は次のように説明してくれました。

「ただ、いきなり話せと言われても話せるわけではありません。教師がデモンストレーションで『こんな風に会話するよ』というモデルを見せ、会話の出だしは少し真似て、あとは自分で続けるようにと声をかけています。少しずつ難易度を上げ、『こういう言い方もあるよ』とか、『今日はbecause使ってみよう』『whyを使うとうまくいくよ』などと、フレーズを紹介したりして。何より、毎時間会話の練習に時間をとっています」

また1度で終わらず、「次に行うときには、どういった点に工夫をしたらいいかと一緒に考え、2回同じ活動に取り組む機会を与えています。『自分が理解していることを伝えるためには、こんな風に言ったらいいよ』とステップアップできるヒントを与えた上で、もう1度活動を繰り返すようにしています」。コミュニケーション戦略を教えたり、教師からのフィードバックを活用する機会を与えることは大切な足場掛けです。

機械的ではない、意味のある繰り返し練習

この日の授業のテーマは「買い物」。身近な暮らしにかかわる場面を取り上げ、海外旅行での買い物や、将来店員として英語でやり取りすることを想定し、買い物をする時に使う英語を学習しました。

外国語学習では、新しく導入した語いや表現のリピテション(繰り返し)の活動がよく行われます。ただ、その意味を考えることなく、教師や音声に続いた機械的な繰り返しも多く見られます。けれども松村先生は単調さを打破し、学びをより興味深く、生徒が集中力をもって参加できるように、対象、場面、状況を変化させ繰り返し(iteration)をおこなっていました。

一口に「買い物」と言っても様々な状況や場面があります。自分のためのTシャツを買う、旅先でお土産を買うなど、品物だけでなく客の状況や気持ちは異なり、場所や店員の様子も様々です。ペアワークで松村先生は、「ハワイで」「東京で」「カッコいい店員がいて」「友達と一緒に」など異なる場面を与えて、気持ちを考えながら、既習の表現や語いを使うように促します。その度に生徒の思考が動き、新しく習った表現と自分の生活体験をつなげて、想像力も交え、言語の使用場面をより深く意識することにつながるようです。

決められた会話、または生徒が事前に書き出したセリフを読み上げたり暗唱することに終始せず、場面に応じた英語が使えることを目標に授業づくりがされていました。

コミュニケーション活動をする理由

言語活動では、コミュニケーションをとる必然性に配慮することも必要です。例えば、ロールプレイをする時、教科書で学習した、すでに全員が知っている内容を使って、客役が店員役に「How much?」と聞いても、お互いに「話す理由」「聞く理由」がありません。松村先生の授業では、このフレーズを使う必然性、つまり、値段がわからないという設定を作っていました。

「インフォメーション・ギャップ(情報格差)、お互いの情報に差を作って、話を展開し、段々分かってくる、という工夫もしています。今日の授業にもありましたね。ペアの一人が目を閉じていて、『分かんない、え、どんなん、どんなん?』と知りたがるような、相手は知っているけれど自分は分からないから尋ねたい、という設定を作っています」

1時間の授業の中で、生徒たちは何度も基礎表現を繰り返し使っていました。生徒の集中力を切らすことなく、テンポよく展開していくためには、ICTが果たす役割も大きいようです。松村先生は板書の代わりにパワーポイントを使用し、イラストや音声を組み入れていました。今でこそ自在にパワーポイントを駆使している松村先生ですが、使い始めた頃は他の教師の技を真似て、わからないことは積極的に得意な同僚に尋ねて解決してきたそうです。

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