■授業実践と生徒の成果が連動する研修

「スモールトーク」は短時間で頻繁に実施でき、他の技能と統合しやすいやり取りのスピーキング活動です。これを青森県の研修の初回で紹介し、その後教師たちは授業で継続してスモールトークに取り組みました。最初は生徒に戸惑いがあったものの徐々に慣れ、様々な応用表現を使うようになっていきます。そんな生徒が楽しんで取り組む様子を目の当たりにした教師たちは、10ヶ月にわたる研修に非常に積極的に参加し、教師にも生徒にも多くの変化が起こりました。

■「シリーズ型」で研修と授業を往還

青森県では、全国学力・学習状況調査や英語教育実施状況調査等から、生徒の英語による言語活動の状況、特に即興的な言語活動や統合的な活動に改善が必要であることがわかりました。これを受け2021-22年度に、スピーキング(やり取り)、ライティングと統合型のリーディングを重点とする研修を実施しました。

研修は全4回。5月の第1回では、教育委員会からバックワードデザインの授業づくりについて講義があり、スモールトークの具体的な指導法と評価、9月の第2回以降はライティング、リーディング、語い指導と続きました。どの回も、教科書の題材を使いながら、具体的にどんな手順でどんな風に指導するかを習得できるよう実習を多く行いました。第2回以降は授業での取り組みを受講者が互いに報告し、悩みや課題を解決する時間を教育委員会主導で設定。これは自分の取り組みを整理・内省し、仲間から学ぶ時間となりました。

■まずやってみる

研修ではデモ授業を体験した後、そこで紹介された指導技術を分析し、どんな「足場かけ」をどのタイミングで提供するかについて、何度も練習する時間を確保しました。ここでは「指導モデル」の説明を受けるだけではなく、講師が「やって見せる」ことと、教員が実際に「やってみる」ことが欠かせません。新しい指導に取り組む時の抵抗や不安を軽減し、教員が安心を感じる環境で気づきを得られるよう、具体的で体験的に進めたことは非常に効果的でした。実際「明日の授業でやれそうだ」という声が多く聞かれました。教員のひとりは、「見るより、実際にやってみると難しかった。繰り返し練習したことで自信がついた」とコメントしています。

■スピーキングでの手ごたえと、思考力・表現力の高まり

研修回毎に、教師がどんな実践をしたかについて具体的な報告がされると共に、「表現力が伸びた」「量も質も改善した」「生徒の意欲が増した」「スピーキングの力が高まっていくことで、ライティングのスキルも高まっている」等、生徒の変容について多くの報告がありました。いくつかコメントをご紹介します。 

生徒の自律性が高まる様子  

  • 生徒が受動的に教えられるのを待つのではなく、能動的に興味を持って聞くようになったと感じます。 

多様な教育的ニーズに対する対応  

  • リーディングに関して特に苦手としている生徒が意欲的に取り組むようになった。

リーディングの力の上達

  • 単語そのものの意味をとらえるだけでなく、ダイアログ全体の意味(大意)をとらえることができた生徒が多くなった。また、語彙指導において、発音がよくなった生徒が増えた。
  • 文字と音がつながることで、生徒自ら読める単語が増えてきた。また、生徒同士で活動することによって意欲的な姿勢が見えてきた。

思考力や表現力の高まり

  • 生徒たちにとっては、教え込まれる授業ではなく、教科書を通して自ら考える授業に変化したと思います。
  • 本文の内容に解答のないクリエイティブな質問を取り入れることで、生徒の思考力や表現力を高めることができたように感じた。 

指導を変えたことで生徒の中に小さな変化が起きる、またその変化に満足せず、継続的に生徒に適度な負荷を与え、習得につながる挑戦を続ける教師の声が多く聞かれました。

■働き方改革と授業改善を両立する

以上のような変容を導くために、研修を効率的効果的に進められるよう配慮したことがいくつかあります。1つは対面とオンラインの効果的な使い分けです。4回の内2回はオンラインとし、移動時間の削減を行いました。2つ目は研修内容の厳選です。人が一度に処理できる情報量には限界がありますから、教員の認知負荷を減らし、適度な情報量となるよう心がけました。

3つ目は事後タスクの設定です。研修がやりっぱなしにならないように、研修と授業をつなぐ工夫は大切ですが、学校に戻ってから新たに準備が必要だったり量が多すぎると、教員の負担感が増え、研修後すぐに実施しにくい結果となります。そこで、事後タスクは「研修と同じ内容」で、指導のやり方を全員が十分理解している、追加準備が不要なものとしました。「タスクがあるからこそ学んだことをやってみようという気持ちが強くなった」という声にあるように、事後タスクが十分に機能し、授業実践につながりました。このように、授業改善に対する努力と働き方改革を両立させる配慮が両立したアプローチは必要です。

■再現性の高い研修と更なる改善

研修は10か月という期間にわたりましたが、全体を通してモニタリングと成果測定を行うことで、課題を継続的に特定・修正しました。その結果2022年度は、特にスピーキング評価で変化がありました。「スピーキングテストを実施することは生徒の励みになった」「身近で思わず話したくなるテーマにすることで楽しんで取り組んでいた」「授業でやった活動を自分たちで復習していた」という声が多く届くようになりました。今後は教員が授業改善を継続していくための支援について探ることとなります。