動画言語:日本語、英語(日本語、および英語クローズドキャプション付き)
※字幕をオンにしてご視聴ください。

ブリティッシュ・カウンシル、川崎市とドレイク・ミュージックとのコラボレーションは、どのような背景で生まれたのでしょうか。

川崎市は、『音楽のまち』としても知られ、『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』では英国チームのホストタウンを務めました。大会を契機に、誰もが暮らしやすいまちづくりを推進する『かわさきパラムーブメント』を立ち上げるなど、共生社会に向けた活動に積極的に取り組んでいます。音楽、そして共生社会。確かな共通項をもつ川崎市とドレイク・ミュージックの協働は、必然的なものだったといえるでしょう。

本プロジェクトは、2019年秋~2021年秋にかけて、駐日英国大使館とブリティッシュ・カウンシルが共同で展開した、日英交流年『UK in JAPAN』の主要プログラムにも位置づけられました。予期せぬパンデミックで計画の変更を余儀なくされながらも、常に柔軟な発想をもって前向きに歩みつづけてきたその取り組みの軌跡をたどっていきます。

障害のある人の音楽アクセス向上、その未来(2017年~2021年)

トークセッション:障害のある人の音楽表現を支えるテクノロジーの可能性(2018年3月15日)

2018年、プロジェクトが始動。最初の目的を、“まずはドレイク・ミュージックについて知ってもらう”、そして“そこからどんなコラボレーションが生まれるのかを探る”という2点にフォーカスしました。ドレイク・ミュージックのメンバーをはじめて日本に迎え、トークセッション『障害のある人の音楽表現を支えるテクノロジーの可能性』を開催しました。

ドレイク・ミュージックから3名(うち1名は英国よりスカイプで参加)、日本からは音楽家のみならず、楽器インターフェイスの研究者、楽器デザイナー、義手楽器の開発者が参加。まずは、ドレイク・ミュージックの活動の中核を担う『障害の社会モデル』という概念の共有から始めました。“社会モデル”では、疾患をベースに個人の問題として捉える“医療モデル”とは異なり、障害のある人が困難に直面している場合、変わるべきなのは個人ではなく社会だと考えます。

障害のある音楽家の主導で制作する楽器に関して、日本での開発事例を紹介しました。会場では、実際の楽器展示も。障害とは何か、音楽とは何か。そんな根本的な問いと向き合い、自分自身のなかにある固定概念に気づかされる機会になりました。

  • 詳しくは、セッションレポート:障害のある人の音楽表現を支えるテクノロジーの可能性(前編)、(後編)よりご覧ください。

フォーラム:Music for All -すべての人に音楽を!(2018年3月16日)

『Music for All -すべての人に音楽を!』と題して開催したフォーラムでは、主に、音楽セクターや政策に関わる人を対象としました。基調公演は、アーツカウンシル・イングランドのアビド・フセイン氏が行い、ダイバーシティには長期的な視点が必要であり、その責任は私たち一人ひとりにあると語りました。

また、障害のあるミュージシャンの音楽コンテストや、東京交響楽団による誰もがクラシック音楽に親しめるための活動、テクノロジーを用いた新しい楽器などの、日本の事例紹介もありました。障害のある人の音楽参加について、さまざまな角度から見つめ直しました。

  • 詳しくは、フォーラムレポート:Music for All -すべての人に音楽を(前編)、(後編)よりご覧ください。

Disability Equality Training(DET)ワークショップ(2019年1月21日)

ドレイク・ミュージックからトレーナーを日本に招き、『障害の社会モデル』について理解を深め、クリエイティブな手法を通して、音楽とテクノロジーとの関係について考えるワークショップを実施しました。ドレイク・ミュージックのプログラム参加のために必須のもので、障害のある人が講師を務めます。

英国では、1970 年代に起きた社会運動から『障害の社会モデル』の概念が生まれ、社会の側にある障壁を取り除くための活動が行われてきました。本ワークショップでは、この概念の理解に加え、音楽活動によりアクセスしやすくなるテクノロジーの応用事例が紹介されました。

障害のある人の音楽活動をサポートする土台づくり—音楽ファシリテーター育成トレーニングと障害のある音楽家と進める楽器開発セッション(2019年3月5日~9日)

2019年3月には、障害のある人の音楽活動へのアクセス向上を推進の基盤づくりを目的に、ドレイク・ミュージックから3名の講師を迎えてふたつのプログラムを実施。プロジェクトの意義や目的に賛同する参加者たちを集めました。

ひとつ目のプログラムは、『障害のある人を対象とした音楽ワークショップのファシリテーター育成トレーニング』。この3日間のプログラムには、日本の音楽家が参加。障害と平等に関する考え方の理解、ファシリテーションスキル、テクノロジーを取り入れた音楽プログラムのあり方などについて学びました。最終日には、障害のある人を交え、音楽づくりのワークショップを実施。

ふたつ目のプログラムは、ミートアップセッション『障害のある音楽家とともに進めるアクセシブルな楽器開発』。日本のテクノロジー関係者や障害のある音楽家が参加しました。日英それぞれの経験や知識、技術を共有し、障害のある人の音楽参加や障害のある音楽家のビジョン実現をサポートするテクノロジーの可能性について考えました。

2度目のファシリテーター育成トレーニング(2019年12月2日~6日)

ドレイク・ミュージックから3名の講師を迎え、2019年3月に続いて2度目の『障害のある人を対象とした音楽ワークショップのファシリテーター育成トレーニング』を実施。目標は、テクノロジーを取り入れつつ、障害のある人を対象とした音楽ワークショップをリードするスキルを身につけ、自信を高めること。一日半のトレーニングに加え、特別支援学校の生徒のべ52名を交えた実践的なワークショップを実施しました。

参加した音楽家たちからは、「障害のある子どもたちが音楽に触れたときの笑顔が印象深かった」「実際に講師のファシリテーションを見て学べたことがよかった」などの感想が寄せられました。このトレーニングで得た知見は、プロジェクトにおいて音楽づくりを進めていく上でも、ひとつの基盤となりました。

テクノロジーを活用したDIY楽器づくりワークショップ(2019年12月7日)

ドレイク・ミュージックから3名をファシリテーターに迎え、『テクノロジーを活用したDIY 楽器づくりワークショップ』を開催。音楽家やテクノロジー関係者、障害のある音楽家に、限られた時間でも、自分たちの発想力を利用することで、誰かのニーズに応えた楽器を生み出せることを実感してもらうのが目的です。参加者は2~3名でグループを組み、会場周辺でさまざまな音を録音。その音を利用し、タッチセンサーと導電インクやアルミホイルなどを組み合わせて楽器をつくり、お互いの楽器を披露し合いました。

ノートパソコンの画面を見ながら話す2人
2019年12月に行った、ワークショップでの様子。音楽家やテクノロジー関係者、障害のある音楽家が参加。  ©

British Council Photo by Kenichi Aikawa

トーンチャイムを手に持ち、椅子に座る人が作る円の中心で、指揮棒を振る車椅子に座った男性
ワークショップでは、知識を身につけるだけでなく、実践的なスキルトレーニングを行う。 ©

British Council Photo by Kenichi Aikawa 

コンサートホールの檀上で演奏するオーケストラを舞台下手から映した写真。
2021年8月9日、クラシック音楽祭『フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2021』にて東京交響楽団の演奏で、《かわさき組曲》が世界初演された。 ©

British Council, photo by Kenichi Aikawa

オンラインセミナー:誰もが参加できる音楽ワークショップの実践(2021年3月9日、3月16日)

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、ドレイク・ミュージックのメンバーの来日が不可能になりました。しかし、それまでに学んだ知識や技術をもとに、オンラインという手法を用いて、プロジェクトは本格的に再始動します。ドレイク・ミュージックのメンバーを講師に迎え、全2回のオンラインセミナー『誰もが参加できる音楽ワークショップの実践』を開催しました。

オンラインに切り替えたことで、日本全国の音楽教育関係者の参加が可能になり、プロジェクトの輪はさらに広がりました。1回目のセミナーでは、障害のある児童の可能性を引き出す音楽ワークショップのデザイン方法を紹介。2回目のセミナーでは、多様な障害のある児童の主体的な音楽表現をサポートするデジタルツールを、iPad とアプリによる実演を交えて共有しました。

『インクルーシブな音楽教育の手引き-英国ドレイク・ミュージックの実践より』を公開(2021年3月)

音楽ワークショップを実践する日本の音楽家や関係者を対象に、ドレイク・ミュージックの活動の根底にある考え方や、積み重ねてきたノウハウを届けるべく、日本語の手引き、『インクルーシブな音楽教育の手引き-英国ドレイク・ミュージックの実践より』を作成。ドレイク・ミュージックが英語で公開しているリソースからコンテンツを抽出し、日本語に翻訳・編集を行ったものです。誰もが参加できる音楽づくりのための具体的なアプローチ法や20のヒント、使用可能なアプリ・ソフトウェアやその活用法について、簡潔にまとめました。

のべ20回の音楽づくりワークショップを経て《かわさき組曲》が完成(2021年5月~7月)

ドレイク・ミュージックの音楽家であるベン・セラーズ氏と、それまでのトレーニングに参加した日本の音楽家12名、川崎市内の特別支援学校3校に通う生徒27名・教員18名で、新しい曲づくりにチャレンジしました。

2021年5月~7月にかけて、のべ20回にわたる音楽づくりのワークショップを実施。ジュゼッペ・ヴェルディ作曲のオペラ《アイーダ》の音楽を手がかりに、生徒たちのインスピレーションをもとにして曲づくりを進めました。生徒たちのサポート方法については、ベン・セラーズ氏と日本の音楽家たちが話し合う機会も設定。ワークショップの様子は、英国に動画で共有されました。生徒たちが生み出すリズムやメロディ、思い思いに奏でる音が、譜面のなかに落とし込まれ、《かわさき組曲》として完成しました。生徒の個性や創造性だけではなく、ワークショップの雰囲気をも捉えた作品に仕上がりました。

ミューザ川崎シンフォニーホールで《かわさき組曲》を世界初披露(2021年8月9日)

2021年8月9日、ミューザ川崎シンフォニーホールで《かわさき組曲》が初披露されました。演奏は、川崎市のフランチャイズオーケストラ、東京交響楽団(指揮:原田慶太楼氏)。夏の風物詩として市民に親しまれてきたクラシック音楽祭『フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2021』のフィナーレを飾りました。

《かわさき組曲》は、『ふしぎなポケット』『えがおになれるばんそう』『みずいろのスマイル』『きいろとりどり』の四つの楽曲から成る、約11分のオーケストラ曲です。それぞれの旋律に、生徒たちの個性や創造性、ワークショップの雰囲気を感じることができます。

オンライン・フォーラム:オーケストラ・ホールと地域との新たな関わり~かわさき♪ドレイク・ミュージック プロジェクトを振り返りながら(2022年3月3日)

『かわさき♪ドレイク・ミュージック プロジェクト』の関係者をスピーカーに迎え、プロジェクトのプロセスや成果を振り返るオンライン・フォーラムを実施。オーケストラやホール、音楽家がどのように地域と関わり、多様な人々が文化芸術に参加する機会を広げていけるのか、それぞれの立場から連携のあり方について議論しました。

今回のプロジェクトは、一般のコンサートに障害のある人による楽曲を組み込むという画期的な試みもありました。展開を予想できず、さまざまな議論があるなかで、何度もミーティングを重ねて意識の共有を図り、最終的に一般の聴衆の心を動かす音楽を披露することができました。誰もが音楽にアクセスできるようにするためには、オーケストラやホール、音楽家をはじめとする人々をどれだけ自然に巻き込むかが重要です。《かわさき組曲》の成功が、地域に、そして全国へと活動の輪を広げるきっかけとなるよう、地道な作業を積み重ねていく大切さを改めて確認しました。

川崎市と追い求める、音楽の新たな可能性

『かわさき♪ドレイク・ミュージック プロジェクト』のなかで生まれた《かわさき組曲》。音楽を通して、障害のある生徒たちが自分の感情やアイデア、内面を表現する方法を見つけることに重点をおいた挑戦が、ひとつの楽曲として結実しました。今回、曲づくりを牽引した音楽家たちは、音楽ファシリテーターとしてドレイク・ミュージックによるトレーニング成果をいかんなく発揮し、生徒たちが本来もっている音楽性を引き出すことに成功しました。

川崎市とドレイク・ミュージックの取り組みをきっかけに、日本でも障害のある人が音楽づくりや演奏に参加するインクルーシブな音楽活動の実践スキルを身につけたファシリテーター育成や活用の輪が広がり、質の高い参加型ワークショップが、各地で開催されることを期待しています。同時に、楽器づくりのワークショップで見えてきたように、今後テクノロジーの活用が、ますます障害のある人の音楽活動へのアクセス向上を推進していくことを願っています。

川崎市は2024年に市政100周年を迎え、《かわさき組曲》を初披露したミューザ川崎シンフォニーホールは開館20周年を迎えます。障害のある人がどのようにして音楽に参加していくのか。音楽の新たな可能性を追い求めるべく、川崎市とブリティッシュ・カウンシルは協働していきます。

本サイト内の関連ページ

関連サイト