Playable Cityのアイデアから公共空間を再定義する

英国ブリストルのメディアセンター、ウォーターシェッドが2012年に立ち上げた、「遊び」を通して都市と人が出会うグローバルなイノベーションプラットフォーム、「Playable City」。そのプログラムの一環である国際会議「Making the City Playable 2018」が2018年9月28日(金)、東京で開催された。世界9ヵ国から約30名のクリエイティブ・プロデューサーが一堂に会し、Playableの定義や課題、さらにそれを推進するクリエイティブ・ディレクターの役割について意見交換することで、グローバルな視点から東京の未来を考える機会となった。

道路作業員のコスプレで登場したモデレーター、ウォーターシェッドCEOのクレア・レディントン氏とライゾマティクス代表の齋藤精一氏は、2015年にPlayable City Tokyoがスタートして以来のプロジェクトパートナーだ。ウォームアップや軽いゲームを挟みながら、午前中は5人のスピーカーによるプレゼンテーション、午後には参加者と東京の街へ出て2つのアクティビティを実施。さらにPlayable City Tokyo 2018レジデンスプログラムに参加した英国のクリエイター2人による成果発表、そして1日を振り返るセッションと、アップテンポに濃密な1日を過ごした。心地よい集中力はまさに遊びに夢中の時のよう。そして会議の内容をその場で絵にしていくグラフィックファシリテーター、やまざきゆにこ氏のライブドローイングも、Playableな会議にふさわしい成果だった。

スイッチを入れさえしたら、人は遊び始める

アーティストで遊びを研究する博士でもあるティーン・ベック氏は、基調講演で人間にとってなぜ遊びが必要かを説いた。「遊び」とは、誰でも参加できる自発的で即興的な行為であり、それ自体に魅力があって、一度やるとまたやりたくなるものである。遊ぶのは人間ばかりではない。動物だって遊ぶ。遊ぶ身体が発するポジティブなエネルギーは、生きる質を高めてくれる。遊びの反対は真面目な仕事だと思いがちだが、実は遊びの対局にあるものは憂鬱である、という氏の指摘には、はっとさせられた。

子どもは遊びの天才だが、大人であっても、きっかけさえあれば遊びに参加する用意がある。テクノロジーやインタラクティビティは、人々に遊びのスイッチを入れさせる手助けをするものだ。「テクノロジーはあくまでもツールにすぎない」は、ベック氏ほか当日プレゼンを行ったアーティストのほぼ全員が口にした言葉だ。Playable Cityにおけるテクノロジーは、どの街にあっても人がその中心にある。

誰に向けてインビテーションを送るのか

ここで安心して遊んでもよいというインビテーションは、誰に向けて送られるのか。障害のあるアーティストを支援する世界最大規模のコミッションプログラムUnlimitedのジョー・ヴェレント氏は、Playable Cityにおけるソーシャル・インクルージョンの重要性を語った。世界には、障害者と健常者がいるのではなく、やり方が違う人がいるにすぎない。そして物理的にアクセスが難しかったり、疎外感を感じていたり、自信がなかったり、さまざまなバリアがあって遊びに参加できない人がいる。それぞれの異なるバリアに気を配ることは特別なことではなく、多様な人々が一緒に暮らすうえで当然のことなのだ。Playable Cityの実践においても、誰が遊ぶのか、誰に向かってその場が開かれているのかを、常に意識してほしいとヴェレント氏は語った。

小規模な実践から始めよう

黒鳥社ディレクターの若林恵氏が基調講演で紹介した『江戸時代商売図絵』には、多種多様な小商いが存在する江戸時代の生き生きとした市井の生活が描かれていた。グランドレベル代表の田中元子氏が提唱する「マイパブリック」も、こうしたスモールビジネスの状況とどこか似ているものがある。街なかでコーヒーを配りながら知らない人との会話が始まり、新しいつながりが生まれると自分の世界も変わる。「マイパブリック」は、都市に住む人が一人で始められる公共事業だ。自発的で見返りを求めない、つながりを生むこの行為を彼女は「趣味」と呼んだが、これはPlayable Cityがまさに「遊び」と呼ぶものである。街には自分のスタイルで公共を実践している人たちがたくさんいる。それは、多様性に満ちた都市の最大の魅力だ。

それは自身を「プレイ・アクティビスト」と名のり、「遊び」に特化したナショナル・シンクタンクの設立者であるデンマークのマテアス・ポルソン氏が、Play=行動することの大切さを語っていたのと共通する。小規模な実践がつながりを生み、自分の身の周りを変えていく。そこで大切なのは、遊びのコミュニティを信頼すること。信頼することで思いもよらない成果が生まれていく。

プレゼンテーションスライドが投影されたスクリーンの横に立ってマイクを手に話す人
若林恵氏(黒鳥社 ディレクター) ©

British Council Photo by Kenichi Aikawa 

プレゼンテーションスライドが投影されたスクリーンの横に立ってマイクを手に話す人
ティーン・ベック氏(アーティスト、リサーチャー) ©

British Council Photo by Kenichi Aikawa 

プレゼンテーションスライドが投影されたスクリーンの横で話す人
ジョー・ヴェレント氏(Unlimited) ©

British Council Photo by Kenichi Aikawa 

プレゼンテーションスライドが投影されたスクリーンの横に立ってマイクを手に話す人
田中元子氏(グランドレベル代表) ©

British Council Photo by Kenichi Aikawa 

プレゼンテーションスライドが投影されたスクリーンの横で話す人
マティアス・ポアソン氏(ナショナル・シンクタンク設立者) ©

 British Council Photo by Kenichi Aikawa 

公共と遊びの新しいルールとクリエイティブ・プロデューサーの役割

1日の振り返りでは、Playable Cityが向きあうべき課題として、公共のルールと遊びの関係が話し合われた。現在品川駅周辺の新しいまちづくりに関わるJR 東日本グループの三輪美恵氏は、これから新しい街をつくっていくときに、ハードはできてもそこにビジョンを植えるのはそこに集まる人だと語った。東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控えて、いま多くのパブリックスペースが開発され、公園の使い方が検討されている。このときこそが、公共空間のありかたを再定義するラストチャンスかもしれないと齋藤氏は語る。その時に、行政や建築、アーティストなど多様な言語を理解するクリエイティブ・プロデューサーが東京にはもっと必要となる。また、遊びとリスクの関係を理解し、アクセルと同時にブレーキもデザインして乗りこなすことも求められる。ソーシャル・インクルージョン、行政や企業のマインドセットの働きかけなど、クリエイティブ・ディレクターがやらなければいけない仕事は多く、育成は重要で急務な課題だ。けれど、もしも東京の街で、人々がそれぞれ身の回りでPlayableなアクトを起こしたら、それはきっとすばらしいPlayable Cityの誕生となるだろう。そう最後に語った西イングランド大学ジョン・ダヴィ教授が拍手に包まれた時、Playable Cityというプロジェクトの本質を見たように思った。Playable Cityは、遊びの姿を借りた生きるための思想であり、創造的な人生を求める本能的な人間の欲求であり、均質化され漂白化されていく都市を人々の手に取り戻すための、ポジティブで楽しい実践ではないだろうか。

【Making the City Playable 2018 コンファレンス 開催概要】

日程:2018年9月28日(金)
会場:ステーションコンファレンス万世橋

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