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本レポートでは、2021年7月19日に渋谷区立上原中学校で行われた「音楽づくりワークショップ」についてお伝えする。

このワークショップはブリティッシュ・カウンシルとロンドン交響楽団(以下LSO)とのパートナーシップによって実現されるもので、オーケストラや音楽家と、地域社会との関わりを深めることを狙いとしたプログラム「Discovery for 2021〜あらゆる人と音楽を奏でる喜び」(2018年より開始)の一環として行われたものだ。オーケストラやクラシック音楽に日頃から馴染みのない人々を含め、あらゆる年齢層やバックグラウンドを持つ誰もが、自由な創造力を働かせ、音を出す喜び、音楽する楽しさを発揮できることを目指している。

2018年・2019年は、レイチェル・リーチ(作曲家/LSOワークショップ・リーダー)とLSOのメンバーが来日し、小学校や高齢者施設、障害者施設でのワークショップや成果発表を行ってきた。一方、コロナ下にある2021年は、これまで数年にわたりリーチのもとでトレーニングを積んできた日本の音楽家たちがファシリテーターとなって音楽づくりワークショップが行われた。メンバーは村松裕子(コントラバス奏者/新日本フィルハーモニー交響楽団)、磯多賀子(ヴィオラ奏者/東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団)、磯野恵美(フルート奏者/東京文化会館ワークショップ・リーダー)だ。

対象となったのは中学2年生。筆者は3つのクラス(それぞれ50分ずつ)の音楽作りワークショップを取材した。内容はレイチェル・リーチが提案したものに基づき、村松・磯・磯野の三者と、上原中学校の今井教諭が協力をしながら実践された。

なお、生徒たちはこの日のワークショップに先立ち、今井教諭の授業でドビュッシー作曲の「牧神の午後への前奏曲」の鑑賞を行っている。その際には、LSOが開発した鑑賞用Webアプリ「LSO Play」日本語版を活用し、オーケストラの演奏を映像付きで鑑賞。作曲家や作品の基本情報を押えた上で、音楽の3つの場面(眠りに入る牧神・牧神の夢の世界・眠りから覚める牧神)それぞれから受けるイメージや、それぞれの場面の音楽の特徴を書き留めるなど、創造性を促す準備がなされている。

以下は、50分で行われたワークショップの内容の流れである。3つのクラスはそれぞれに、担当するファシリテーターによって時間配分、言葉がけ、流れ等の違いはあったが、およそ次のように構成されていた。

■導入 (10分程度)

まずはクラス全員で半円形になって座る。音楽家3名が、それぞれの楽器(コントラバス・ヴィオラ・フルート)を紹介し、その音色を有名曲のワンフレーズを奏でて聴かせる。生徒たちは目の前の楽器とその響きに興味津々の様子だ。続いて、授業で鑑賞した「牧神の午後への前奏曲」の冒頭のフレーズを、磯野によるフルートの生演奏で聴く。

■創作その1:3つの要素からなる「眠りの音楽」の創作(10分程度)

さっそく創作に入るが、ファシリテーターは次のような説明を完結に行う。「これからみんなも6つのグループに分かれて、眠〜い雰囲気をもった『眠りの音楽』を作ってみよう。ルールを3つ設けます。1つは、ファ・ソ・ラ・シという4つの音を使うこと。白鍵の音ですね。どんな順番でもいいですよ。2つ目は、キラキラ〜っとした伴奏も付けてみて。3つ目は、眠りから覚めそうな、ビックリする音も何か入れてみて。作ったら、グループごとに発表してもらいます。ではスタート!」

 生徒たちは6つのグループに分かれる。各グループに用意されている楽器は、電子キーボード・木琴・グロッケンシュピールなどの鍵盤楽器、トライアングル・チャイム・ウッドブロッグ・タンバリンなどの打楽器。吹奏楽部に所属する生徒は、トランペット、ホルン、サクソフォン、フルートなどを持ち寄る。

なるほど、ファ・ソ・ラ・シという4音に絞ると、ドビュッシーの多用した全音音階や半音階的な雰囲気とうまく沿わせることできる。また、打楽器を活用したり、創作する内容を3つに限定することで、個々人の楽器経験に関わりなく、限られた時間内で協力しながら、無理なくひとつにまとめ上げることができそうだ。

3人のファシリテーターは、それぞれ2つずつのグループを担当して見回り、「この楽器も使ってみよう」「好きにやってみていいよ」「じゃあ次はこの音にしてみたら」「キラキラって、どんな感じ?」などと声がけしながら、生徒一人一人の参加を促し、イメージ作りやまとめのサポートを行う。

■「眠りの音楽」発表(5分程度)

10分ほどで作った「眠りの音楽」を、グループごとに発表してもらう。どのグループもおよそ40秒前後の音楽にまとめられているのが興味深い。鍵盤楽器による4音からなるメロディーを軸に、グロッケンシュピールやトライアングルなどで「キラキラした伴奏」を付け、打楽器の強打で「びっくりする音」が表現されていく。生徒たちは、他のグループがどのように作ったのか高い関心を持つようで、真剣に集中して聴いていた。

各グループの発表ごとにファシリテーターは「ストーリーを感じることができたね」「打楽器をたくさん使えましたね」「寝息が聞こえるようでした」などとコメントを添える場面もあった。

■創作その2:自分たちのイメージに基づいて音楽をつくる(10分程度)

ワークショップに先立つ鑑賞授業で生徒たちは、ドビュッシーが『牧神の午後への前奏曲』でイメージに基づいて音楽をつくったように、「音楽にしたいイメージ」を挙げていた。生徒たちが挙げたイメージからファシリテーターがいくつかピックアップして紹介した。

最初のクラスでは「夢の入り口は、暗い音も使って吸い込まれるようにきれいだけど、ちょっと不安になるリズムで」、次のクラスでは「前半は鉄琴など高い音を使ってかわいらしい音楽、ポポポ〜、妖精のイメージ。後半は低い音で急にかっこよく・リズムの速い音楽、ダンダダ・・・、現実に引き戻されるようなイメージ。」、3つ目のクラスでは「変化のある音楽。変化とは強弱の変化、速度の変化、盛り上がりの変化。」というイメージが紹介され、生徒たちはそのイメージに基いて、自由なやり方で音楽をつくった。3つ目のクラスでは、イメージを補うためにグループごとに夢のイメージを設定、「何かから逃げている夢」「怖くてゾワゾワする夢」「マシュマロに乗っている夢」などが出た。

■「自分たちのイメージに基づいた音楽」発表(5分程度)

再び 、各グループの発表。やはりどのグループも40〜50秒の音楽にまとめられている。ここでは「眠りの音楽」ほどルールはないので、各グループの自由さや工夫が出る。反復リズムや、クラスター的な音響、次第にアッチェレランドするテンポの変化、など多彩な表現がなされていた。

■全員で一つの作品にまとめる(10分程度)

最後に、各グループの作ったA「眠りの音楽」とB「夢の音楽」を組み合わせ、一つの作品にまとめる。

「どんな順番でやるかを、みんなで話し合ってまとめる方法と、指揮者をやってくれる人を決める方法があります。どっちがいい?」とファシリテーターが問いかける。なかなか声は上がらず、指揮者に立候補する生徒も出ないので、そうした場面では日頃生徒を見ている今井教諭から声掛けして促す。3クラスとも、指揮者が選ばれた。

指揮者は、Aを演奏してもらいたい時は指1本、Bの時は指2本を出す、という合図が決まった。合図を送られたグループは、演奏を開始し、指揮者の合図で止める。指揮者によって、複数のグループが同時に演奏されることもある。指揮者は想像性が発揮され、奏者は指揮者の合図に集中する。大枠として指揮者はA-B-Aの三部形式を作る。最後のAは、一つのグループが代表して演奏したクラスもあれば、全グループ同時に演奏して締めくくったクラスもあった。最後まで生徒たちの集中力が途切れることなく、違いの音を聴き合いながら演奏していた。

最後に、指揮を務めた生徒たちに感想を語ってもらった。「いろんな楽器から可能性を引き出せた」「各班の音を組み合わせるのは難しかったけれど、楽しかった」「綺麗にできたと思う」といったコメントが出た。

■鑑賞と創造、その両軸の大切さ

ファシリテーターたちはそれぞれの言葉でワークショプを締めくくっていたが、核となるメッセージは、次のようなものだった。

「作曲家は、いろんな視点からモチーフやイメージを膨らませて作品をつくっています。今日は皆さんに、そんな作曲の第一歩を実践してもらいました。ドビュッシーの気持ちに一歩近づけたと思います。これからもコンサートなどで音楽を聴く機会があったら、イメージを自由に膨らませて、音楽を身近に感じ、楽しんでくださいね」

どの生徒も楽器の扱いが丁寧で、柔らく美しい音色で奏でていたのが印象に残る。これは、今井教諭の日頃からの授業での生徒への働きかけに加えて、題材とした「牧神の午後への前奏曲」の鑑賞が、事前授業においてしっかりとなされており、そのイメージの延長上でワークショップの創作がなされていたためと考えられる。鑑賞と創造、その両軸の大切さに改めて気づかされる。日頃の充実した授業と、ファシリテーターによって提示される新たな刺激によって、子どもたちの創造する心、相手の音を聴く力、音を自由に楽しさや喜び=Playの精神が、無限に引出されるのを目の当たりにできた。

■ファシリテーターの感想

ワークショップの終了後、ファシリテーターを務めた3名の音楽家に話を聴いた。大いに手応えを得たようだ。以下に、コメントを紹介する。

磯多賀子さん

「年齢の違いや障がいの有無を超えて、あらゆるバックグラウンドを持った人たちと、音を通じたコミュニケーションを図り、何かを作り上げる喜びを経験することができる。英国のワークショップを通じて、そうしたことに気づかされました。日本では、楽器を習うことは訓練・鍛錬であるといった側面が強くなりがちです。それによって集中力や達成感を得ることもできますが、子どもたちの自由な発想を伸ばすことも忘れたくないですね。レイチェルは日頃から、『正解はない、間違いもない』と言っています。楽器を手にし、音楽を通じて、表現しあえる楽しさを伝えていきたいです」

村松裕子さん

「レイチェルに出会い、彼女がいかに音楽作品や作曲家に対する理解が深いかを知って驚きました。また彼女はオーケストラの団員たちが、このようなワークショップを実践できるように育てており、その意義を広く伝えていることにも共感します。日本では、まだオーケストラのメンバーが主体的にこうしたメソッドを行える土壌にはありませんが、これから私も地道に活動を続けたいと思います。子どもたちが自分の頭で考えて、音を出したり、仲間とディスカッションできる時間は大切ですね。レイチェルの『間違いはないんだよ』という言葉は、私たちの普段の暮らしや生き方にも、大切な視点だと思います」

磯野恵美さん

「今年はレイチェルが来日ならず残念でしたが、彼女は生徒一人一人の個性を見極める力が素晴らしく、今日は自分に彼女を降臨させるつもりでワークショップに臨みました。やはり時間配分などが難しいとは感じましたが、今日は3人で1クラスずつ担当するなかで、お互いにアイディアを出し合って、3つのクラスを通じてブラッシュアップすることができました! それぞれバックグラウンドの違う私たちですが、音楽家にとっても学びの多いワークショップです」

 

(取材・文=飯田有抄 )

 

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