*《Scored in Silence》の作品上映は終了しました。

《Scored in Silence》について

英国で活躍する障害のあるアーティストと作品を紹介するシリーズ、『#CultureConnectsUs UK Disabled Artist Showcase』。

今回紹介する作品《Scored in Silence》(2019)を制作した南村千里は、ロンドンを拠点に活動するパフォーマンスアーティストです。2019年、ブリティッシュ・カウンシル主催のエジンバラ・ショーケース、チュニジアのCarthage Theatre Days Festivalでの上演を皮切りに、英国、カナダ、韓国、チリ、メキシコなどでオンラインも活用しながら《Scored in Silence》の上演とワークショップを開催してきました。

《Scored in Silence》は、耳が聞こえない被爆者たちとの出会いから生まれたデジタルパフォーマンス作品です。彼らが体験した知られざる歴史とインタビューによる証言をもとに制作されました。南村氏が本作で引き出すのは、これまで伝えられてこなかった聴覚障害がある人の被爆体験とその後の物語です。原子爆弾の残酷さとともに伝えられるのは、耳の聞こえない被爆者たちが直面した孤立、そして差別などの悲しい体験です。

この作品が制作されたプロセスについて南村氏に話を伺いました。

《Scored in Silence》はいかにして生まれたか

現在ロンドンを拠点に活動をする南村氏。本作品のきっかけは、日本に帰国した際、耳の聞こえない年配の女性に出会ったことだといいます。

 「その方は広島で生まれたそうです。原子爆弾の被害を受けた生存者であることを明かし、自らの体験を語ってくれました。彼女の話に、強くひきつけられました。ふたりとも耳が聞こえなかったからこそ、共感する部分がとても大きかったのです」

 深い共感とともに衝撃を受けた南村氏は、彼女の話をどのように伝えていくべきか慎重に検討した、と続けます。知られざる物語に耳を傾け、その重要性を引き出すために必要なことは何か。専門領域をカバーする制作チーム、すなわち多様なアーティストらとコラボレーションすることでその答えを導き出していきました。

「私は耳が聴こえないからこそ彼らの体験に焦点を当てたいと思いました。制作は、アーティスティックディレクターである私を中心とした、聴こえないアーティスト主導(Deaf-led)でおこなわれました。」

テクノロジーと表現の可能性

まず南村氏の心を強く動かしたのは、冒頭で紹介した被爆者の女性が手話をする際の、力のこもった身振りと顔の表情でした。本作の照明・演出デザインを担当したジョン・アームストロング氏とともにその表現を模索していきます。

Holo Gauze(ホロガーゼ)と呼ばれる最新のホログラフィック・プロジェクション・スクリーンがこれを叶えました。この技術を採用し、被爆者の女性のイメージを透過スクリーンに投影。パフォーマーの姿やアニメーションと重ね合わせる方法を考案しました。

このほか、Woojer Edge(ウージャーエッジ)と呼ばれるデバイスも用いられています。Woojer Edgeは、重低音を皮膚感覚を通じて体感するために開発されたストラップ型のウェアラブルスピーカーで、装着すると身体全体に音の振動が伝わり、視覚や感情と絡み合うことで没入型の体験を作り出します。このデバイスの存在を教えてくれたのはメディア・アーティストのデビッド・ボビアーでした。

「デビッドはこの作品の課題をすぐに理解し、この素晴らしいデバイスについて教えてくれました。振動技術ですから、耳の聞こえない人も聞こえる人も、同じようにこの作品の体験を共有することができます」

このように、南村氏は複合的なメディアとテクノロジーを自在に使いこなしているように見えます。どのようにして現在の表現方法を獲得したのでしょうか。

「渡英したばかりの頃は自分がデジタルアートを活用したパフォーマンスアーティストになることなど想像できませんでした。さまざまな人々との関わりと学びの中からいまのスタイルが生まれました」

《Scored in Silence》における「音」

南村氏はさらに続けます。

「パフォーマンス自体は、アニメーション、手話、振動のすべてを含むさまざまな感覚に訴えかける総合的なメディアですが、静寂のパートも存在します」

この静寂の中で「音」はどう表現されているのでしょうか。音を使うことなく、振動によって感情の深さを伝えることはできるのか。南村氏はこうした疑問について、制作チームのメンバーでサウンドデザイナーのダニー・ブライトと議論を交わしていきました。

「《Scored in Silence》には原爆を積んだ戦闘機が離陸するシーンがありますが、戦闘機が加速する緊張感が肌で感じられます。私は原爆が投下される瞬間にはものすごい大きな音が鳴るのではないかと思っていましたが、ダニーはそのシーンは無音であるべきだと言いました。爆発の瞬間はそれだけで強烈であり、音を加える必要がないと」

 本作が上映された国々ではいつも熱のこもった質疑応答が展開されると言います。作品を通して、氏がいかに周囲の意見に敬意を払い、オーディエンスとのコミュニケーションを重視しているかが感じられるはずです。

アーティストからのメッセージ

《Scored in Silence》で語られているのは、隠された秘密の物語です。世界は当時から大きく変わり、誰もが豊かな多様性に目を向ける時代になりました。多様性から得られる新しい視点や前向きな姿勢が、この作品を通じて皆さんにも伝わることを願っています。

#CultureConnectsUs UK Disabled Artist Showcase紹介アーティスト

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