TeachingEnglish Asiaでは、アジア各地での英語教育に関する情報をご紹介しています。その中の日本での取り組みとして中央研修を紹介する記事において、ブリティッシュ・カウンシルの講師が実際に福島県で行われたカスケード研修を見学してのレポート、および中央研修のレポートを掲載しています(英語原文)。その日本語訳をご紹介します。

福島の英語教育推進リーダー研修実習

日本の英語教育が変わりつつあります。全国で、新しい「推進リーダー」の教員たちが、英語の授業の変革を支えています。ローラ・マッケンジーが福島でそんなリーダーの一人に会ってきました。

私は2015年5月、中央研修の2年目から日本のブリティッシュ・カウンシルでこの研修を担当しています。私が参加してまもなく駐日英国大使がブリティッシュ・カウンシルを訪問し、私たちが将来の「英語教育推進リーダー」に研修を行っているところを見学されました。その週の研修は熱気にあふれていましたが、私はこの先生方が地元の学校に戻り、日常の学校生活に戻ったときに果たしてどのような研修を行っていくのかを知りたいと思いました。

その後、実際に福島を訪れて、中央研修の1期生である福島県の太田由香里先生が同じ高校教員に対して行う研修を実地踏査する機会をいただきました。

研修がどのようなものになるのか想像できませんでしたが、到着した瞬間、私は研修会場の雰囲気に驚かされました。受講していた先生方はお互いに英語を使う機会を楽しんでおられ、何よりも、研修を指導している講師、つまり由香里先生に刺激を受け、引き込まれているようでした。彼女は研修の中で、中央研修によって自分の生徒たちがどのようにして英語に対してやる気を見せるようになったか、教室でコミュニケーションを取る手段としてどのように英語を使い始めたのかという実践例をたくさん紹介しました。受講者の先生方は、自分たちと同じように日々悩んでいた同僚が大きな変化を起こしていることに興味津々で、彼女がどのようにして授業を変えることができたのかをもっと知りたがっていました。

研修の後、私は由香里先生からお話を聞くことができました。彼女の言葉をここで紹介します。

「私は昨年(2014年)4月に中央研修参加者として推薦されました。新しい学校に異動したばかりでした。また、アメリカで6か月教育学を学んで帰国した直後でもあったので、推進リーダーとして福島の英語教育に貢献できることにわくわくしていました」

「集合研修1の後、私は単語や表現の教え方を変えました。以前はただ単語の意味を日本語で生徒に確認させていただけでした。集合研修1の後で、私は“dash to the board”や“Pictionary”、マイムのような活動を試してみました。生徒たちはこれらの活動でとても盛り上がりましたし、今でもクラスで行っています」

由香里先生は何の滞りもなく研修を行っていましたが、これはたまたま起こったことではないことがすぐにわかりました。彼女は研修の準備に大変な労力を注いでいたのです。

「最初の研修実習は昨年12月に行いました。新潟県が先に研修実習を行ったので、私は新潟まで行って野沢先生(同じく推進リーダー)の研修実習を見学しましたが、そのことが非常に準備に役立ちました。伝えなければいけないことをリストにして練習しました。誰もいない教室を使って、1人で練習をしました。時々ほかの英語の先生が見ていてアドバイスをくれました」

その努力は実を結びました。研修を始めて間もなく、由香里先生は同僚の見る目が変わったことに気づきました。

「…他の先生方の私への接し方が変わってきました。以前は、コミュニカティブな指導法を提案してもあまり賛同してくれませんでした。でも、研修実習を行ってからは、私がやってみたいことを多くの先生方が理解してくれるようになり、徐々に反応が変わってきたのです」

「先生方は英語オンリーの授業を見て感銘を受けたようでした。特に過去完了の教え方、生徒の理解度をはかる方法などが印象深かったようです。受講者の先生方は、研修で使ったアイディアを実践してみたいと言ってくれました」

福島ではこれが雪だるま式の効果を起こし、たくさんの先生方が由香里先生の学校にやってきて公開授業を見学するようになりました。

「先週、福島全県から来た先生方に授業をお見せしました。予想をはるかに超える56名の方がお見えになりました。研修実習で教えた方法やアイディアで私がどのような授業を行うのか、皆さん興味があったのだと思います。授業はうまくいき、先生方は、中には伝統校や進学校の先生もいましたが、とても好意的な反応をいただきました。カスケード研修は福島の英語教育に大きな影響を与えたと確信しています」

文部科学省は2016年3月末までに約2万人の教員が研修を受けることになると試算しています。ただ、数字よりも、研修によって生まれた人と人とのつながりこそが最も大きな成果かもしれません。由香里先生はこうも言っています。

「中央研修のおかげで、英語教育について教材やアイディアを語り合える仲間ができました」

今後も、日本中で由香里先生のような人々に会うことを楽しみにしています。

トレイナーの視点から見た中央研修

エリック・ジェイコブソンは中央研修の1年目を担当したブリティッシュ・カウンシルのトレイナーです。彼が小学校の教員と共に研修を行った経験を語りました。

私は、日本の文部科学省の方々を前にして「はらぺこあおむし」を朗読するような日が訪れようとは想像していませんでした。しかし、正にそのようなことが中央研修で実現してしまったのです。彼らは小学校で絵本を使用する研修を視察に訪れたのですが、見た光景に満足してお帰りになったようです。

中央研修には日本の各都道府県から派遣された小学校教員が参加しており、英語で英語を教えるにあたっての自信と能力を伸ばすことをねらいとしています。絵本、歌、オーセンティックな英語、ゲームを使用し、教室英語(例:「繰り返してください」「これは英語で何と言いますか?」など)を導入して、日本の小学校の児童たちにとって授業をより身近で、興味関心を高め、より記憶に残るものにすることが目的です。もうひとつの目標は、児童がお互いに英語でコミュニケーションを取ることができるようになることです。「外国語活動」が日本の小学校に必修として導入されたのはごく最近になってからなのです。

研修中、先生方はとても積極的に活動に参加していました。たとえば、私がジェスチャーや抑揚、指さしなどのテクニックを使って絵本の読み聞かせをデモンストレーションした後で、先生方は自分で絵本を選び、ペアを組んでどのように読むか計画を立てました。先生方が提案するアイディアはすばらしくクリエイティブで、指人形から小道具の聴診器、折り紙で折ったフライパンまであらゆるものが登場しました。先生方は児童(つまり他の参加者)に絵本を読み聞かせた後で、お互いにフィードバックを受け、その後で私がさらにアドバイスを提供しました。

中央研修の重要な目的のひとつは、この研修を受けた教員たち自らが最終的に講師となって研修を行うことにあります。自分たちの地元に戻り、学んだことを実践したあとで、同僚の教員たちにこの研修を行うのです。この壮大なプロジェクトの最終目標は、日本国内のすべての英語教員にこの内容を共有することにあります。本年度の終盤には、日本各地で研修実習の模様を見学する予定です。私自身も新しいやり方を学ぶ機会になるのではないかと期待しています。

関連サイト