近年、悪化する雇用情勢や、高齢化等に伴う単身世帯の増加といった社会変化に伴い、人々の関係性が希薄になり、「孤立」に関連した課題が表面化しています。国や自治体においても「地域共生社会」の実現を掲げ、制度の壁や分野を超えた協働など、具体化に向けた改革が進められています。
孤立への対策が急がれているのは日本だけではありません。英国では2018年1月に「孤独担当相(Minister for Loneliness)」が新設され、社会的孤立にアプローチする取り組みを始めています。福祉や医療だけでなく、美術館や劇場、ホールをはじめとする文化芸術セクターでも、認知症の高齢者の方や、中高年の独居生活者、ホームレスの若者など、社会的に孤立した立場にある人々にクリエイティブな取り組みを展開しており、参加者がコミュニティでの居場所を見つけQOLが向上するなど、その成果に注目が集まっています。
こうした状況を受けて、ブリティッシュ・カウンシルと川崎市は、日本と英国において「孤立」や「生きづらさ」という課題に対して文化芸術を通して先駆的な取り組みを行っている団体や専門家を招きフォーラムを開催します。現状の課題を共有するとともに、日英の具体的取り組みを紹介し、文化芸術からのアプローチについて議論を深めます。
【開催概要】
日時:2019年8月16日(金)15:00-18:00(開場14:30)
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール 市民交流室
参加費:無料(日英同時通訳つき)
定員:80名 (先着順)
主催:ブリティッシュ・カウンシル / 川崎市
対象:文化芸術関係者、行政関係者、医療福祉関係者、研究者など
申し込み方法:オンラインフォームよりお申し込みください。
【スピーカー】(登壇順)
- 斎藤環(精神科医)
- 上田假奈代(詩人 / NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)代表)
- 今井朋(アーツ前橋 学芸員)
- 西野博之(NPO法人フリースペースたまりば理事長)
- マット・ピーコック(ウィズ・ワン・ボイス ディレクター)
- フィー・プラムリー(ウィズ・ワン・ボイス パートナーシップ・マネージャー)
- べス・ノールズ(サルフォード大学リサーチャー / 英国マンチェスター市 元ホームレス部局 局長)
- ジョン・オーガン(マンチェスター・ホームレス・チャーター立案者)
- ジェズ・グリーン(マンチェスター・ホームレス・チャーター立案者)
【モデレーター】
中村美亜(九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)
【プロフィール】
斎藤環(精神科医)
1961年、岩手県生まれ。1990年、筑波大学医学専門学群 環境生態学 卒業。医学博士。爽風会佐々木病院精神科診療部長(1987年より勤務)を経て、2013年より筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。また、青少年健康センターで「実践的ひきこもり講座」ならびに「ひきこもり家族会」を主宰。専門は思春期・青年期の精神病理、および病跡学。
上田假奈代(詩人 / NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)代表)
1969年吉野生まれ。3歳より詩作、17歳から朗読をはじめる。「ことばを人生の味方に」と活動する。2003年大阪・新世界で喫茶店のふりをした拠点アートNPO「ココルーム」をたちあげ、2008年西成・釜ヶ崎に移転。2012年、まちを大学にみたてた「釜ヶ崎芸術大学」、2016年「ゲストハウスとカフェと庭ココルーム」開設。大阪市立大学都市研究プラザ研究員。2014年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞。
今井朋(アーツ前橋 学芸員)
1980年生まれ。国際基督教大学卒業。エコール・ド・ルーヴル(パリ)第一課程、第二課程修了。「極東のテイスト」展(2011年、フランス・ナンシー市立美術館)の企画、監修により第33回ジャポニスム学会賞受賞。2013年より現職。主な担当企画展に、アーツ前橋×前橋文学館共同企画展「ヒツクリコ ガツクリコ ことばの生まれる場所」(2017年)など。2016年に企画した「表現の森 協働としてのアート」展では前橋市内にある福祉施設や団体とアーティストが協働する5つのプログラムを紹介。同展終了後も長期的なプログラムとして、アートが福祉や教育、医療の現場に入っていくことで、どのような化学変化が起こりうるのかを考察する。
西野博之(NPO法人フリースペースたまりば理事長)
1986年より不登校児童・生徒や高校中退した若者の居場所づくりにかかわる。1991年、川崎市高津区にフリースペースたまりばを開設。不登校児童・生徒やひきこもり傾向にある若者たち、さまざまな障がいのあるひとたちとともに地域で育ちあう場を続けている。 2003年7月にオープンした川崎市子ども夢パーク内に、川崎市の委託により公設民営の不登校児童・生徒の居場所「フリースペースえん」を開設、 その代表を務める。2006年4月より川崎市子ども夢パークの所長に就任。川崎若者就労自立支援センター「ブリュッケ」総合アドバイザーも務める。
中村美亜(九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)
専門は芸術社会学。芸術活動が人や社会に及ぼすプロセスや仕組みに関する研究、また、その知見を生かした文化政策に関する提案を行っている。学術博士(東京藝術大学)。著書に『音楽をひらく―アート・ケア・文化のトリロジー』(水声社、2013年)など。ジェンダーやセクシュリティに関する著作も多い。東京藝術大学助教などを経て、2014年より現職。九州大学ソーシャルアートラボ副ラボ長。共創学会、アートミーツケア学会理事。2019年3月に、文化庁と九州大学の共同研究の成果として『はじめての“社会包摂×文化芸術”ハンドブック』を刊行。
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ウィズ・ワン・ボイス について
オペラや音楽を体験することにより、ホームレスの人々が前向きに社会と関わりを持てるようになれる機会を提供している英国のアート団体「ストリートワイズ・オペラ」が2012年のロンドン五輪をきっかけに立ち上げたイニシアティブ。ロンドン五輪の際には、総勢300名の英国各地のホームレスが参加するパフォーマンスをロイヤル・オペラ・ハウスで開催し、オリンピックの歴史上、はじめてホームレスの人々にスポットライトが当たったプログラムとして大きな注目を集めた。ロンドン五輪でのレガシーをリオでも継承すべく、ブラジルの政策関係者やアート団体、アーティストとの交流プログラムを展開し、2016年のリオ五輪では公式文化プログラム「セレブラ」の一環として、ホームレスとアートをテーマにした国際交流事業を開催。ブラジルや日本など世界各国におけるアートとホームレスの状況が共有され、リオデジャネイロのホームレスによる演劇作品や100名を超える合唱隊によるパフォーマンスなどが披露された。ロンドン、リオから続くこの事業を、2020年に向けて日本でも展開し国際的なアートとホームレスの運動に発展させていくことを目指している。近年ウィズ・ワン・ボイスの働きかけにより、マンチェスター市やエジンバラ市では、衣食住だけでなくアートもホームレス施策の中に取り入れていこうとする動きが広まり、近年その成果に注目が高まっている。
マンチェスター・ホームレス・チャーター について
マンチェスターにおけるホームレス問題の深刻化に呼応し、ホームレス経験者、ホームレスの課題に取り組んでいる各団体、地元企業、自治体、市民などが集まり「マンチェスター・ホームレス・パートナシップ」が立ち上がった。2015年には、マンチェスターでホームレス問題を終わりにすることをミッションに掲げ、ホームレス当事者やホームレスセクターの関係者に経験や課題を共有してもらう様々なワークショップや会議が開催され、その結果としてマンチェスター・ホームレス・チャーター(憲章)が作られ、ベストプラクティスとして英国内外で注目を集めている。チャーターでは、未来に向けてのビジョンや、ホームレス問題に関わる異なる立場の人々を結びつけるための実践的な方法が提示されている。