状況設定から考える文法指導

松村先生は、常に、文法はコミュニケーションを支えるものという観点でとらえ、授業づくりをしています。

「例えば、文法事項を使ってどんな会話ができるかと、いつも考えています。未来形を勉強する時に、『未来形を勉強します』というのではなく、『来週の日曜日に遊びに誘おう』とか、実際にありそうな場面を設定する、ということです。文法事項をメインに考えるのではなく、その文法事項からどのようなシチュエーションができるかを中心に考えて授業を作るようにしています。」

従来の英語教育では知識の指導に集中し、使う場面を意識することが少ない傾向にありました。そのため、子どもたちの知識が生かされる機会が限定されていましたが、それを活性化されたものにしようとしています。

南中学校において、状況設定を重視することは、すべての生徒の学力保障という点でも大きな意味があると松村先生は話をしてくれました。生活環境や学力面で課題を抱えている子、塾で学習内容を先取りしているため、授業にのめり込めない子もまた困っている、という状況があるとのこと。「文法事項ではなくシチュエーションに重きを置いた練習は、塾で学んでいることとは全然違う。一方、勉強苦手な子はbe動詞+ing とか言われると『あ~もうわけわからん!』となりますが、『こういう場面でこういう風な言い方の勉強をする』と説明すれば苦手意識を取り払えます。」

対話を通して、仲間から学ぶ

生徒どうしがペア、グループ、クラス全体でつながることができるような活動を毎回取り入れることで、クラスの仲間づくりにもつながる授業、も松村先生が目指すものです。仲間と協力するという社会的ストラテジーは言語学習に有効で、生徒が教え合ったり学び合ったりする力を信じ、生徒の力を活用することは自律性を育てることにもつながります。

「活動を通しての友達の存在が、参加する意欲に影響することも多いかなという気がします。」

定着状況に不安があったり、英語が苦手な子も、文脈が本物でありさえすれば、何らかの角度から活動に参加できる可能性が高まります。個々人の関心は異なるので、授業に様々な技能や側面を取り入れると、何かをきっかけに英語への関心が生じ、あるいは苦手意識が払しょくされることさえ期待できます。

スピーキング自体には心理的ハードルが高くなるため、ていねいな環境づくりがとても重要となりますが、ペアやグループワークを活用することで生徒の情意フィルターが下がり学習効果が高まります。

「(言語活動は)前向きに参加する子が多く、『俺できてるかも』というリアクションをする生徒がいます。小学校で一緒に担当した先生は、『以前は教室に入ることさえ難しかったのに、今は中学校で教室でちゃんと英語に参加している』と変化を喜んでおられます。周りの力があって参加できているように思います。授業に参加して『できてるんちゃう?』、『俺、やったで、ちゃんと』という達成感を味あわせることがまずは大事だと考えています。」 

それでも、生徒間の学力差や支援学級の生徒が一緒に授業を受けている場合もあるため、個別のニーズに応じた支援が必要となります。松村先生は活動のヒントや英語の読み方を解説した「お助けプリント」を用意しています。それを使うかどうかはその生徒の意思にゆだねられているだけでなく、そのプリントを小さめに作っている点にとても細かい配慮を感じます。 

小中連携と生徒理解

小学校での外国語活動の成果として、中学校入学時には英語でコミュニケーションをとる態度が育成されていると報告されています。中学校は、小学校からの学びの連続性を意識した指導が求められますが、従来型の指導からの変換がうまくいっていない中学校では、それがスムーズにいっていない場合もあるようです。

松村先生の場合は、この生徒たちを小学校時代にも指導しました。この日の授業においても、小学校で学習した買い物の表現を踏まえた上での構成となっていました。

そうした小中連携や言語活動が中心の授業の成果は、生徒からよいフィードバックが得られています。例えば、授業についてのアンケートで、昨年の1年生の約9割が「英語の授業がよく分かる・分かる」と回答したそうです。南中学校では、丁寧な生徒理解、生徒をつなぐ、そして「できて、分かった」を味合わせる授業、の3点を大切にしています。これを英語の授業でも大切にされていることが伝わってきますが、それが実現できるのは、松村先生の確かな授業技術があってこそです。

英語を使って何ができるか

松村先生は、毎回の授業の目標を「英語を使って何ができるかといった日常生活に即したもの」と設定しています。そして、「英語力=英語の知識」ではなく、英語を使ってコミュニケーションを取ろうとする気持ちを大切にしたいと考えています。

そのためには教師が英語を使う見本を示し、英語に触れる機会を確保することが求められます。松村先生は授業のねらいを日本語で説明した以外はほとんど英語を使って進めていきますが、教師が英語を使いすぎず、生徒が英語を使う時間を最大限に確保するように配慮しています。 

また、松村先生の授業に存在するものは、教師側の支持的な雰囲気と、教師・生徒間にある多大なラポート(信頼)です。これは英語以外の教科でも必要な要素ではありますが、スピーキングのように不安を誘発する要因を取り除く上での素地となります。

松村先生は最後に、「英語は言葉なので、広い視野の英語を身につけ、勉強というよりはコミュニケーションツールとして、どの程度使えるかという視点で勉強してほしい」と結びました。そういった授業を実現するためには、松村先生のように多くの足場掛けを提供し続けていくことが大事であることを確認しました。

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