Assemble, A Showroom for Granby Workshop (2015), Photographer: Keith Hunter
Assemble, A Showroom for Granby Workshop (2015), Photographer: Keith Hunter

2011年から1年おきにロンドン以外の都市で開かれるようになった「ターナー賞」展。ニューカッスル、デリー/ロンドン・デリーに続く今回は、スコットランドに遠征だ。これまでに多くのターナー賞受賞者を排出し、英国の現代アートを牽引してきたグラスゴーが開催地に選ばれ、サウスサイドの複合文化施設トラムウェイにてノミネート者を紹介する展示が開かれている。奇しくもそんな年に限ってグラスゴー出身のノミネート者がゼロと皮肉だが、「かつてないほど見栄えがよい」(タイムズ紙)、「久しぶりに到達した高地点」(BBC)と、例年に比べて評価が高いようだ。

路面電車の倉庫を改装した広大なスペースに並ぶのは、今年の注目株であるメンバー18人構成の建築家・デザイナー集団アッセンブルに、ボニー・キャンプリン、ジャニス・カーベル、ニコール・ワーマースの女性作家3名を加えた4名(組)の作品。今年で31回目を迎えるターナー賞は、現代アートの定義枠を広げるようなノミネートに定評があるが、今年はその傾向がとりわけ強く、視覚芸術の定番領域を超える作品が目立つ。その間口の広さに、「現代アートとはいったい何か」と改めて考えさせられる良い機会になっている。

そんな作品の筆頭が、ノミネートと同時に「公営住宅がターナー賞の対象になった」と話題になったアッセンブルの作品だ。住宅の形式をとる展示品は、ノミネートの対象となったリバプールのスラム住宅の再生プロジェクト「グランビー・フォー・ストリーツ」の一部になり、その一環として彼らが現地に設置したワークショップ内での活動を披露する、ショールームのような作品になっている。室内には暖炉用の石板や手染めの布などの「素材」がセンスよく飾られているが、これらはみな再生住宅への再利用を念頭に、廃材を用いて現地の人たちと一緒につくられた実用性のあるものになり、この点がまず他のノミネート作品と大きく違う。また、これらの「インテリア用品」は、資金集めのためにオンラインショップで販売もされており、作品全体が表現の場を超えて、より大きな社会的目的をもつプロジェクトを支える経済活動の一部になっているのが大きな特徴だ。

アッセンブルのノミネートに象徴されるのが、歩み寄るアートと建築の関係ならば、クラシック音楽を扱うジャニス・カーベルの作品は、パフォーマンスによって接近するアートと音楽の関係か。カーベルの展示の中核をなすのは、6人の声楽家がアカペラで歌う《ダグ》という作品。ダグという人物の身に起きた事故をつづった9編の物語を、24分間のオペラ調の旋律として表した作品になり、専門家の手助けを得てはいるものの、作詞のみならず作曲もカーベル自身が初挑戦している。バリトンからソプラノまで揃った歌声はとても美しく、音楽性の非常に高い作品になるようだが、やや寂しいのが、ギャラリーでのパフォーマンスにしては視覚を満たす要素が乏しいこと。

一方、残りの2名の作家、ニコール・ワーマースとボニー・キャンプリンは、身近なものを素材に用いてそこにコンセプトを込めた、今回の作品群のなかではオーソドックスな部類に入る作品を発表している。ワーマースの展示品は、モダンデザインの傑作たるマルセル・ブロイヤーの椅子の背に、ハイファッションの象徴たる毛皮のコートを縫い付けた立体を、2個、3個とグループ化して並べたもの。素材の選択と何気ないジェスチャーから、ある種の層のライフスタイルや縄張り意識、男女共存社会といったイメージが浮かぶが、謎めいた作品は多くを語らず、鑑賞者に解釈が委ねられている。

それに対してキャンプリンの《パターンズ》は、リサーチを重視したよりコンセプチュアルな作品になり、映像、本、書類などで構成された、来場者が使用できる学習室の形式をとる。部屋の中央に置かれた5台のモニターには、YouTubeから抜粋された陰謀論者のインタビュー映像が流れ、壁沿いの机の上には、心理学、哲学、宗教からSF、魔術まで、彼らが好んで読みそうな書籍や資料が並ぶ。この作品の面白いところが、陰謀論者の突拍子もない会話に付き合う形で、鑑賞者のコンセンサス・リアリティー(合意的現実)が試されていること。馬鹿げた話のようであって、わたしたちの生活の重要な部分を占めるインターネットがこうした真偽の怪しい情報の温床となっているだけに、笑って済ませられないリアリティーを感じる。

さて、こうして今年も異色な作品群が並んだ「ターナー賞」展。受賞の行方をめぐり早くもキャンプリン派、アッセンブル派と議論が白熱しているが、興味深いのが初の建築家のノミネートとして話題を集めてきたそのアッセンブルをめぐる美術評論家の意見だ。

「作品の社会的、建築的な価値については疑問ないが、アートとしての価値にはもちろん疑問がある」「そもそもここにいるべきではない」と厳しい論を展開するのは、テレグラフ紙のマーク・ハドソン。一方、アッセンブルの社会貢献活動を評価したうえで、美術界の大物作家と彼らの価格の差に注目し、「わいせつなアート・マーケットに断然勝ってはいるが、ターナー賞をとるだろうか? たぶんとるべきだ」と主張するのは、ガーディアン紙のエイドリアン・サーレ。サーレと同じ路線をとるBBCのウィル・ゴンパーツも、アメリカの美術家セアスター・ゲイツや労働党の新党首ジェレミー・コービンを引き合いに出し、アッセンブルの活動家としての事業にかける情熱と決意を賞賛し、一票を投じている。このようにメディアの目はアッセンブルに集中しているが、いったい誰に軍配が上がることになるのだろうか。12月7日に受賞者1名が発表される。(文:伊東豊子)

2015年10月

「ターナー賞2015」展覧会

会期:2015年10月1日~2016年1月17日
会場:Tramway, 25 Albert Drive, Glasgow G41 2PE
会場Webサイト:www.tramway.org

Janice Kerbel, DOUG (2014), Photographer: Keith Hunter
Janice Kerbel, DOUG (2014), Photographer: Keith Hunter
Nicole Wermers, Installation (2015), Photographer: Keith Hunter
Nicole Wermers, Installation (2015), Photographer: Keith Hunter
Bonnie Camplin, Patterns (2015), Photographer: Keith Hunter
Bonnie Camplin, Patterns (2015), Photographer: Keith Hunter

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