「ターナー賞2013」展スタート

Image: David Shrigley "Life Model 2012" (installation) © David Shrigley Tate Photography: Lucy Dawkins

1984年の創設以来、アニッシュ・カプーアやデミアン・ハーストら錚々たる美術家を世界に送りだしてきたターナー賞。毎年4名をノミネートし、展覧会を経て1名に賞が付与されるが、今年はその展示を2013年度の「英国文化都市」に選ばれ、様々な文化行事が続いている北アイルランドのデリー/ロンドン・デリーにて開催。初のイングランド以外での展示となる。そのホスト会場を務めているのが、新しくオープンした文化施設「エブリントン」で、英国陸軍の元兵舎を改築したこの建物は、2011年に開通したピース・ブリッジと並んで苦い過去に別れを告げる街のニュー・シンボル。和平が進み更なる発展へと向かうこの城塞都市に、「物議」起こしで知られるターナー賞がどんな衝撃を巻き起こすのか、注目を集めている。

今年のノミネート者は、マンガ風のドローイングで主に知られるデイヴィッド・シュリグリー(1968生まれ)、参加型パフォーマンスのティノ・セーガル(1976)、人物画のリネッテ・イアドム=ボアキエ(1977)、映像インスタレーションのローラ・プロヴォスト(1978)の4名。近年の理論重視の傾向がやや弱まり、笑いや意思の疎通を重視した親しみやすい作品が目立つラインナップになっている。

4名のなかでも最も大衆寄りなのが、時に「風刺画家」と称されるマックルズフィールド出身グラスゴー在住のデイヴィッド・シュリグリーだ。写真、スカルプチャーからアニメーション、ミュージックまで実に幅広い活動を行っているが、代表的なのが20冊以上の著書が出版されている文字を伴うドローイングで、未熟さが強調された素朴な表現のなかに潜むブラックユーモアが持ち味。笑いをそそるポップな作品は美術館の壁を越えて広く巷で人気だが、現代美術の文脈の中でも独自のポジションを確保している。昨年のヘイワード・ギャラリーでの個展が評価されてノミネート。

その大衆派のシュリグリーに対して、現代美術のトレンドの最先端に位置するのが、今年のヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞した英国生まれベルリン在住のティノ・セーガル。作家自身から指導を受けた志願者が会期中ずっと実行するアクションに近いパフォーマンスを一貫して制作している。作品の鍵となるのが、パフォーマーの動きと語り、対話などを通じてのパフォーマーと鑑賞者との接触。体験と記憶を重視し、写真や文書による記録も含めて「もの」を残さない徹底した非物質主義が貫かれている。テート・モダンとドクメンタ(13)でそれぞれ披露された作品が評価されての選出。

一方、ターナー賞始まって以来の黒人女性ノミネート者として注目を集めているのが、ガーナ系英国人でロンドン在住のリネッテ・イアドム=ボアキエ。一見定番に見えて、絵画に対する固定観念を揺さぶるような制作を展開している。例えば、西洋美術史に珍しい黒人を敢えて主題にしたり、モデルの存在を想起させる肖像画を空想で描いたり。また、一点の制作に1日以上かけない、シリーズで見せるなど、一作重視的な絵画の性質に逆らう傾向も。チセンヘール・ギャラリーでの個展が評価されてノミネート。

また同じく最後のローラ・プロヴォストも女性作家で、女性対象の現代美術賞マックスマーラ・アート・プライズを受賞するなど近年注目を受けている。フランス出身でロンドン在住。映像と空間インスタレーションを融合した大掛かりな制作を展開している。先の受賞作品と並んで選考の対象になったのが、テート・ブリテンのクルト・シュヴィッタース展用につくられた作品で、自分の祖父がシュヴィッタースと友人の美術家だったという偽りの設定のもとに撮った映像を、撮影に使ったセットのなかで展示。独特の口調で語られる物語性の強いナレーションと、五感を覚醒する映像とサウンド使い、絵画や立体を交えたクロスメディアな空間作りなどが主な特徴。

このように今年も多様な作品が集まった「ターナー賞」展。評論家の反応もすこぶるよく、「愉快で、魅力的で、大衆向き」(ガーディアン紙)、「熟練し、思慮に富んだアート」(インディペンデント紙)、「正真正銘の宝」(ベルファスト・テレグラフ紙)と早くも絶賛の声が飛び交っている。初のデリー/ロンドンデリーでの展示が街の人々にどんな反応をもたらすのか、今後の展開が楽しみだ。12月2日に受賞者1名が発表される。(文:伊東豊子)

「ターナー賞2013」展覧会

会期:2013年10月23日~2014年1月5日
会場:Ebrington, Derry-Londonderry, Northern Ireland
ターナー賞2013公式サイト:http://www.turnerprize2013.org/