Switch House, Tate Modern
Switch House, Tate Modern ©

Iwan Baan

新館のスイッチ・ハウスがオープンし、祝賀ムードのテート・モダン。増築計画の発表から約10年。じらされた末に公開された建物は、「ねじれピラミッド」などの愛称で親しまれる要塞風。設計を担当したのは、今回もヘルツォーク&ド・ムーロン。旧火力発電所をギャラリーへと転じ、テート・モダンを世界的に有名にした、スイスの建築家ユニットによる続投だ。開館記念イベントが催されたオープン直後の週末3日間には、新館をいち早く体験しようと、普段の約2倍の14万3千人が来場し、いつにないにぎわいぶりとなった。

そんなロンドンの新名所たるスイッチ・ハウスが立つのは、かつて発電所の心臓部だったタービン・ホールの南側。地下のオイルタンクを改修してロンドン五輪の年に一時公開された、ライブ・アート用の施設ザ・タンクスの真上になる。

多目的なニーズに応えるレンガの要塞

本館のボイラー・ハウスと調和をなすよう外壁が煉瓦(れんが)で覆われたスイッチ・ハウスは、高さ64.5メートル、地上10階建て。窓が控えめな建物は、一見、巨大な一枚岩のようにのっぺりとして見えるが、実は33万個ものれんがを隙間をあけて碁盤の目のように並べた、恐ろしく手の込んだ構造だ。この無数の穴のおかげで、昼は自然光が館内に差し込み、夜は館内から漏れた明かりがうっすらと建物を包む、機能性と神秘性を兼ね備えた仕上がりになっている。

年間約500万人が訪れるテート・モダンは、世界の近現代美術館のなかでトップの来場者数を誇るが、2000年にオープンした建物は、その約半数の200万~250万人用に設計されたものだった。この問題を解決すべく、今回の増築を経て、館内のスペースが6割り増しになった。展示室、イベント会場に加えて、ショップやレストランも充実し、ロンドンを一望できる展望台も登場するなど、来場者の多目的なニーズに応えるレイアウトになっている。

その中心を占めるのが、2階から4階に広がるコレクション展の会場だ。近現代を扱うボイラー・ハウスとは対照的に、ここには1960年代以降の立体やインスタレーション、映像が並ぶ。なかでも見事なのが、新館最大の2階の展示室だ。むき出しの照明自体が作品のような長さ64メートルの大空間に、カール・アンドレや草間彌生など、ミニマルな形態で統一された大御所30名程の作品がずらりと並び圧巻である。また、4階には、国際色豊かな作家によるベイルート、カイロなど世界の都市をテーマとする作品群が展示され、テート・コレクションの新たな方針であるグローバリズムが強調されている。

一方、その上階には、実験的な交流の場であるテート・エクスチェンジ用のフロアが登場した。美術家とパートナー団体がテートのスタッフとともに舵をとるこの会場は、一般市民の参加のもと、社会におけるアートや美術館のあり方を考える新たな試みの場になる。今年9月のオープンに備えてまだ準備中だが、大学からラジオ局まで50強の団体がすでにパートナーとして加盟している。同じ新館の地下にある、2012年にオープンしたザ・タンクスも、世界の美術館のなかで初めてのライブ・アートと映像、インスタレーションに特化したスペースとして話題になったが、ここでもまたパイオニアとなりそうだ。

市民がキープレーヤーとなる美術館

そんなスイッチ・ハウスを一番乗りで堪能したのは、英国全国から参加した3,000人の児童たち。公式オープンの前日に来場し、美術家ボブ&ロベルタ・スミスらの手引きのもと、作品鑑賞のみならずポスター作りやパフォーマンスにも挑戦した。一方、6月17日から3日間続いたオープニング・ウィークエンドでは、「ユニクロ(UNIQLO)」のスポンサードのもと、パフォーマンスや映画の上映、デジタル・テクノロジーを駆使したイベントなどが数多く催された。

そのハイライトのひとつが、タービン・ホールで催された、ロンドン市内の24の合唱団から500名が参加した大合唱《ザ・ブリッジ》。大勢の来場者が見守るなか、美術家のピーター・リバーシッジがさまざまな人に取材して歌詞にまとめた、テート・モダンに捧げる歌16曲が披露された。一方、スイッチとボイラーの両展示場では、テートのパフォーマンスのコレクションのなかからティノ・セーガルらの懐かしの作品が再演された。また、ピカソやアイ・ウェイウェイ(艾未未)らによる「名作」の前では、「ユニクロ10分間アート・トーク」のタイトルのもと、合計650名もの市民ボランティアやテートの従業員が自己流で来場者に解説を披露した。

これらのイベントやスイッチ・ハウスの設備から感じるのが、アートを通じて人と人とがつながる交流の場としての美術館。ただ見るだけの鑑賞の場を超えて、市民の参加を促し、共に考え意見を交わし、一緒に創作をするアクティブな活動の場。子どもも大人も、アート初心者も通も、美術の知識レベルに関係なく誰もが参加できるオープンなコミュニティーの場。そして、そこでの主役は、もちろん私たち来場者だ。ボイラー、スイッチ両館に並ぶ、50カ国を越える作家陣による800点ものコレクション展示もまた素晴らしいが、その鑑賞の場にアクティブな側面が加わったのが、このスイッチ・ハウスの開館で感じたこと。美術館が今後向かうであろう方向性がそこから見えてくる。
(美術ジャーナリスト:伊東豊子)

2016年7月

Switch House, Tate Modern
Switch House, Tate Modern ©

Iwan Baan

Switch House, Tate Modern
Switch House, Tate Modern ©

Iwan Baan

 

Pupils from Charlotte Sharman Primary School attended the special schools preview day, A.S.S.E.M.B.L.Y., and were the first members of the public to visit the new Tate Modern
Pupils from Charlotte Sharman Primary School attended the special schools preview day, A.S.S.E.M.B.L.Y., and were the first members of the public to visit the new Tate Modern; Photo courtesy Tate Photography
ピーター・リバーシッジ作、500名による大合唱パフォーマンス《The Bridge》
ピーター・リバーシッジ作、500名による大合唱パフォーマンス《The Bridge》 ©

Toyoko Ito

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