Paul Smith / Design Museum
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Paul Smith / Design Museum

こちらの記事では2013年11月~2014年3月にかけてロンドンのデザイン・ミュージアムで開催された、ポール・スミスのクリエーションに迫る展覧会「HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」について紹介しています。同展は2016年6月より京都・東京・名古屋を巡回します。

 

2013年11月15日(金)より、ロンドンのデザイン・ミュージアムで、英国でもっとも成功しているファッション・デザイナーの一人である、ポール・スミスの展覧会「HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」がスタートした。ロンドン市内での大規模な展覧会が久し振りとなる今回は、ファッションだけでなくライフスタイルも提案し続けてきたポール・スミスのブランド設立時の様子から、インスピレーションの源となるアートワーク、さまざまな企業とのコラボレーション作品、代表的な服のコレクションまでを一挙に紹介。ポール自身がブランドとともにどのように成長し、独自の世界観を創り上げ、影響を与えてきたのかを知ることができる、ファンならずとも見逃せない内容となっている。

会場は「The First Shop」と名付けられた真っ白な部屋から始まる。これは1970年に当時24歳だったポールが英国中心部のノッティンガムに初めてオープンした、3平方メートル程の小さなショップを再現したもの。ショップと言うよりむしろ部屋に近いこの空間は、ポール自身が「こんなに狭い所からでもブランドを始められることを知って欲しい」と願う場所だ。

続くセクションは、ロンドンのコヴェント・ガーデンにある現在の本社オフィスを再現したおもちゃ箱のような空間。懐かしいスケルトンのiMac、スヌーピーとウッドストックが並ぶ電話機、ユニオンジャック、スケートボードなど、机の回りはポールのお気に入りのモノで溢れ、決して老いることのない彼の感性を感じ取ることができる。

「そこを出るまでにはきっと鎮痛剤が必要になるだろう」とポール自身が語るのは、「パラセタモール(英国でおなじみの解熱鎮痛剤)」というあだ名が付けられた鏡の間「Inside of Paul's Head」。SONYと共同で制作した22台のウルトラHDディスプレイからなるインスタレーションにはさまざまなイメージが映し出され、そのあだ名通りに見る者を圧倒する。

1976年に滞在したパリのホテルの一室を手描きで再現した部屋は、自身のコレクションを初めて発表した展示会場でもあった。現在の華々しさとはまるで正反対のたった10点の小さなコレクションには、最終日にやっと現れた一人の訪問者にほっと胸を撫で下ろしたという若き日の思い出が刻まれているそうだ。

クリエイティブ・チームとのスタジオが再現された部屋は、カラーチェック用のペイントや、ハサミで切り刻まれたイメージ画、生地のサンプルなどが散らばり、作品の制作過程を垣間見ることのできる貴重な空間。近くには、フォトグラファーとしても活躍するポールが写真を始めるきっかけになったという父親のカメラと11歳の時に買い与えられた思い出のカメラも展示されている。

並べてみて本人も改めてその数の多さに驚いたというのは、コラボレーション作品の部屋。カラフルな車体のMINI、限定パッケージのHPソース、エビアンのボトルなど、お馴染みのストライプで彩られたアイテムは、ポール・スミスがファッションブランドという枠を超え、いつしか人々のライフスタイルにも多大な影響を与えていたことを気づかせてくれる。

そして、7万個の大小さまざまなボタンと厳選されたショップの映像や写真が壁に並ぶ部屋。そこにはひとつとして同じものはなく、今や世界を舞台にその規模を拡大しながらも、すべてのショップに独自性を持たせようとするユニークな姿勢とブランドに対する強い情熱が表れている。

70年代から現在に至るまでの服がずらりとならぶ廊下、最新のコレクションの映像が上映される部屋を通り過ぎると、本社オフィスで保管されているという無数のアートコレクションとともに、毎日のように世界中から届くファンレターが飾られた通路にたどり着く。ポール・スミスのドレスを着る日を夢見る90歳の女性からの手紙や、「ファッションは好きじゃないけど、あなたのことは好きです」と書かれた8歳の子供からのメモは、特にポールのお気に入りなのだとか。

最後は「EVERY DAY IS A NEW BEGINNING」と書かれた巨大なポストイットと、記念撮影用に設置された等身大パネルが来場者たちを見送ってくれる。会期前日の内覧会で「若いデザイナーたちやクリエイティブ業界に身を置く人々に多くのインスピレーションを与えたい」と語ったポールの言葉は、これが国際的なファッションブランドの大回顧展ではなく、「誰もが果てしなく大きなものに成長するチャンスを持っている」という、一人のファッション・デザイナーからのメッセージであることを伝えているに違いない。

執筆:磯崎智恵美

2013年11月

「HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」展

会期:2013年11月15日(金)~2014年3月9日(日)
会場:デザイン・ミュージアム(Shad Thames, London SE1 2YD)

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