Nayan Kulkarni, Blade, 2017
Nayan Kulkarni, Blade, 2017

2017年の英国文化都市を務めるヨークシャー北東部の街ハル。イベント開催後一週間で342,000人を動員し、今年1月に英国で大きな話題になったばかりですが、文化事業の相乗効果でしょうか、過去4年で集まった市への投資も10億万ポンド(約1,480億円)と驚異的です。そのイベントを仕切るのが、ロンドン五輪での祭典責任者を経て、現在は「Hull英国文化都市2017」のCEO兼ディレクターのマーティン・グリーン氏。プロジェクトの内容と運営、文化による都市再生についてグリーン氏にお話をうかがいました。

街のストーリーを語るイベント

──まず、「Hull英国文化都市2017」の構想と目的から聞かせてください。

簡潔に言いますと、都市再生のための文化イベント365日間になります。政府の考案により2013年に始まった英国文化都市は、成長を必要とする小都市を対象に4年に一度一都市を選出し、文化を手段に街の再生を促すプロジェクトです。学校の児童や市民ボランティアを巻き込み、一年を通じてさまざまなイベントが催されますが、並行して投資と雇用の機会を増やし、住民の暮らしの質的向上を図ることを重視しています。

──年間1500本ものイベントが開かれるそうですね。すでに最終段階ですが、その概要について教えてもらえますか?

一年という長期間に渡る行事のため、プログラムを4期に分け、各シーズンがハルにまつわるストーリーを語る構成にしました。今年の元旦から始まった第一シーズンが「Made in Hull」になり、この街の物語における序章的な役割を果たしています。「We Are Hull」と題したハルの歴史を語る盛大な映像とライト・ショーで幕をあけ、最初の週だけで342,000人が来場しました。

第二シーズン「Roots and Routes」では、ハルの港町としての役割、海を超えた国際関係に焦点を当て、第三シーズンでは、このハルという街が、英国における奴隷売買を廃止に導いたウィリアム・ウィルバーフォースの生誕地であるため、「Freedom」をテーマにしました。現在進行中の最後のシーズン「Tell the World」は、ハルが世界と向き合う、世界に門戸を開くといった構想になります。フェレンズ・アート・ギャラリーで開催中のターナー賞展がハイライトの一つですが、この部分では現代性とテクノロジーを強調し、未来に向けて躍進しようとするハルのパワーを世界に向けてアピールするものになります。

住民の9割がイベントに参加

──非常に盛大なイベントのようですが、準備期間はどれくらいで、組織的にはどうなっているのでしょうか?

ハル市が立候補を表明したのが2013年で、私が現職に就いたのが翌年の夏になります。基本的にそこが出発点なので準備期間は2年半です。組織の中心にあるのがハル市で、屋外公共施設の整備からギャラリーやシアターの改装まで、インフラを管理しています。私の所属はカルチャー・カンパニーというスタッフ100名ほどの組織で、イベントの立案、キュレーション、そのための資金調達を行っています。

ただこうした大規模な行事には、街のあらゆる機関の参加が必要となりますため、実のところ膨大な数の組織が関与しています。たとえば、101校ある市内の学校すべてが関わっていますし、資金提供者も官民合わせて80団体ほどいます。また、私たちが資金提供をしたコミュニティ・プロジェクトも60件に上り、これは最初の3ヵ月間の統計ですが、住民も10人中9人がなんらかのイベントを訪れたという驚異的な数字が出ています。

──最終的にどれくらいの資金が集まったのでしょうか?

当初の目標額は1800万ポンド(約26.7億円)でしたが、最終的にその2倍弱の3300万ポンド(約49億円)が集まりました。内訳は、800万ポンド(約12億円)が政府からの援助で、360万ポンド(約5.3億円)がハル市から、それ以外は他の公的機関や民間企業からの支援になります。配分は前者が60%で、後者が40%になります。

──2倍とは見事ですね。住民の参加度も非常に高いですし。9割もの住民を動員した成功の秘訣はどこにあると思われますか?

さまざまあると思いますが、住民たちが自分たちの街を誇らしく思い、多方面で急成長していくその街と同化するのが心地よかったのではないでしょうか。

文化が引き寄せる莫大な投資

──英国文化都市の効果がすでに街の成長として現れているのですね。

その通りです。実は英国文化都市への立候補は、ハル市が長年進めてきた開発事業の一翼を成すものなんです。この街には港をグリーン・エネルギー・ポートへと再生する構想が早くからあり、協議が進んでいましたが、2013年に英国文化都市に選ばれたのを受けてその翌年に、ドイツのシーメンス社が100を超える欧州の候補地のなかからハルを選び、風力タービン工場を建設する計画を発表しました。すでに昨年から稼働していますが、これは投入額3億1000万ポンド(約460億円)、雇用者数1,000人の大事業でして、街の新たな産業となりました。

──莫大な投資額ですね。これも英国文化都市の相乗効果なのでしょうか?

もちろんです。オリンピックやコモンウェルスゲームズと同じで、こうした大規模なイベントは投資を呼ぶため、都市再生計画を進めるよい口実になるんです。そこが都市や国にとって非常に有益な部分なんですね。もちろん開発事業のなかにはこうしたイベントがなくてもいずれ着工されるものもあるでしょうが、大規模なイベントが絡むと、さまざまな可能性の蔵を押さえていた錠前が一気に外れるので、すべてが一斉に動き始めます。

──ハルの成功は日本の自治体にとっても興味深いのではないかと思います。

そうですね。2020年に東京五輪が迫っているため、日本はいま素晴らしい口実を持っていることになります。ロンドン五輪の際に英国じゅうで文化プロジェクトが立ち上がったのと同じ状況に、いまの日本は置かれています。セレモニーの関係で東京の組織委員会に関わっているため少し耳にしていますが、そのチャンスをどう成功につなげるか、日本の関係者の間で活発に協議が行われているようです。

──では最後に、日本の関係者に向けて何かアドバイスをいただけますか?

これは政府の政策担当官にですが、文化は非常に重要です。人々の人生観を変えうるだけでなく、経済を活性化する原動力にもなりますので、その場しのぎで済ませずに、十分な予算を確保していただきたいです。なにしろ文化は社会の基盤ですからね。それから、文化プログラムの企画者に対しては、独創的かつ突飛であること。街の社会構造の一部をプログラムに盛り込み、できるだけ大勢の市民を巻き込むこと。集合的、つまりコレクティブな形式をとることが重要であると私は思います。

(聞き手/文:伊東豊子)

Hull英国文化都市2017

会期:2017年1月1日~2017年12月31日
会場:ハル市内各所にて
WebサイトHull UK City of Culture

Imitating the Dog – Arrivals and Departures, Photo: © 2017 Chris Pepper
Imitating the Dog – Arrivals and Departures, Photo: © 2017 Chris Pepper
Zolst Balough – We Are Hull, Photo: © 2017 James Mulkeen
Zolst Balough – We Are Hull, Photo: © 2017 James Mulkeen

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