Installation image: British Art Show 8 at Leeds Art Gallery, (Caroline Achaintre, Om Nom Ore, 2015, Todo Custo, 2015, Mother George, 2015), 2015, Photo credit: Jonty Wilde Photography Ltd.
Installation image: British Art Show 8 at Leeds Art Gallery, (Caroline Achaintre, Om Nom Ore, 2015, Todo Custo, 2015, Mother George, 2015), 2015, Photo credit: Jonty Wilde Photography Ltd.

1979年に始まって以来5年に一度に開かれ、各時代を象徴する美術家を紹介してきた国内巡回展ブリティッシュ・アート・ショー。1984~85年の第2回展にはトニー・クラッグやギルバート&ジョージなど今の大御所が大勢名を連ねた。1995~96年の第4回展ではデミアン・ハーストらYBA世代が中心を占めた*。その最新版となる「ブリティッシュ・アート・ショー 8(以下BAS8)」が、第一開催地であるウェスト・ヨークシャー州リーズ市内の美術館、リーズ・アート・ギャラリーで開催中だ。今の時代を象徴するアートとはどんなものか、展示の傾向を見てみよう。

デジタル時代における「もの」の役割

「英国の現代美術に貢献しているアーティストという点を除いて、とくにテーマを決めないで動きはじめました」と語るのは、本展の共同キュレーターのリディア・イー。

「大勢のアーティストと会話をするうちに、彼らの作品の多くが、デジタルとフィジカル(物理的)な世界の相互関係から生まれていると気づきました。デジタルへの反発から昔ながらの手作業に移る人がいれば、ネットを作品のリサーチの場や情報のソースとして使う人もいる。一方で、デジタルとフィジカルな世界がどんな風に関わっているかを検証するアーティストもいる。そんな状況を見て、いまのこのデジタル時代における物理的なものの占める位置や役割を考える場にする展示にしたいと思いました」

出品者は、30代を中心とする42名。半数近くがここ英国でもあまり知られてない若手になるが、久々の大物の出現と評判のレイチェル・マクリーンや、パブロ・ブロンスタインやブルームバーグ&チャナリンなど国際シーンで活躍する若手・中堅もちらほら目立つ。また、キアラ・フィリップスなどここ数年のターナー賞候補者や、ジョン・アコムフラなど50代の実力者も数名参加している。

手作りとデジタル/フィジカル

この幅の広い人選も関係しているのか、会場には定番的な絵画から斬新なCG映像、イベント形式のライブ作品までさまざまなものが並び、イー氏が語る傾向を初見でキャッチするのはなかなか難しいが、次の2つの作品がBAS8を象徴するよい例かもしれない。

まず一つ目の作品が、会場に入って真っ先に出くわすマルティーノ・ガンパーのワークショップ《Post Forma》で、展示期間中、職人が会場に待機し、来場者がもってきた傷んだ古書やアンティーク家具をクリエイティブな介入を挟みつつ修理してあげるもの。二つ目の作品が、サイモン・フジワラの映像《Hello》で、お互いに面識のない、切断された手に出くわしたことのあるゴミ拾いを仕事にするメキシコ人女性と、生まれつき両腕がないデザイナーのドイツ人男性の二人に焦点が当てられた作品になる。個別のインタビュー映像がレイヤーで表示されたスクリーンに、恐ろしくリアルな切断された手の3D映像が現れ、二本の映像をタッチしながら話をひとつに紡いでいく。

前者のガンパーの作品の興味深い点は、これ自体は作業に重点が置かれているものの、この作品が主張する「ものづくり」「手作業」「伝統技術」が、このBAS8展の多くの作家たちに通じる特徴であること。実に、会場にはそんなものづくりにこだわった作品が、プリミティブなマスクを想起させるキャロライン・アシャントルのテキスタイル作品から、バキュームフォーム方式で表面加工をした臓器を連想させるニコラ・デエーのレリーフまで数多く並ぶ。また、この傾向は平面や立体に限らず、フェチな子ども番組風のファンタジー映像で注目を集めている前出のマクリーンにも当てはまり、全役をひとりでこなした演技からクロマキー合成技術を使ったCGによる制作まで、手作り度の非常に高い作品となっている。

一方、現実の話が仮想空間に舞い込んだようなフジワラの映像は、CGとなってリアルに息を吹き返した「手」の効果もあって、まさにイー氏が言うところのデジタルとフィジカルが交錯した世界の好例だ。会場にはフジワラの他にも、中国のビットコイン施設を映像にとらえたユリ・パティソンや、相手の感情を読める架空の通信デバイスを題材にしているメラニー・ギリガンなど、主題や制作方法においてデジタルとフィジカルな世界がブレンドした映像群が何点か紹介されている。興味深いのが、スクリーンの向こうに広がる世界ながらも、ここでも「もの」が重要といわんばかりに、手や道具、機械など物理的なものがストーリーの基軸となっている作品が多いこと。

専門家から技術や知識を習得

さて、こんな感じに、手のぬくもりと独特なデジタル世界が印象的なBAS8展になるが、これらに加えて気になるのが、前回に比べてコラボレーションが増えたこと。これは今年のターナー賞にも通じることだが、作家間での共同作業や、ダンサーやオペラ歌手を起用したパフォーマンスはもとより、職人、職工から弁護士、キャンペーン団体までさまざまな専門家や専門機関と協力体制をとる美術家が目立つ。イー氏はこう語る。

「いまのアーティストたちは商業的な成功よりも自分の興味や関心を優先させる人が多いんです。興味の範囲も広くて、いつも何かを学んでいたいという気持ちが強い。その対象も今日はバレエ、明日はテキスタイルと頻繁に変わります。けれども自分自身はその道の専門家ではないから、誰かと一緒に制作をする必要性があります」

そんな作家のひとりが、カーペットづくりの伝統技法を用いた立体を発表している大御所リンダーで、制作はアーツ&クラフト運動とゆかりのある工房との共同作業、それを使って行われるパフォーマンスはバレエ団とのコラボレーション。また、英国の車産業の崩壊をテーマとする作品を発表しているスチュワート・ウィップスもそのひとりで、巡回展の期間をかけて、抜け殻のような1979年産ミニ・クーパーを当時生産に携わった元工場労働者と一緒に「新品」へとよみがえらせるプロジェクトを展開している。

ターナー賞への足がかりと言われ、毎回その後数年、展示者のなかから結構な数のノミネート者が出ているブリティッシュ・アート・ショー。イー氏らが注目する「もの」への関心の高まりは、最近の哲学や文化理論でのディベートとも連動しているらしいが、BAS8で紹介されているこれらのアーティストたちが、これからしばらく英国の現代アート界をリードしていくことになるのだろうか。今後の動きに注目したい。(文:伊東豊子)

* 1990年開催の第3回目以降は0と5のつく年に開催

2015年11月

ブリティッシュ・アート・ショー 8 

巡回スケジュール

Leeds
会期:2015年10月9日~2016年1月10日
会場:Leeds Art Gallery, The Headrow, Leeds, LS1 3AA

Edinburgh
会期:2016年2月13日~2016年5月8日
会場(3箇所):Inverleith House/Scottish National Gallery of Modern Art/Talbot Rice Gallery

Norwich
会期:2016年6月24日~2016年9月4日
会場(2箇所):Norwich University of the Arts/Norwich Castle Museum and Art Gallery 

Southampton
会期:2016年10月8日~2017年1月14日
会場(2箇所):John Hansard Gallery/Southampton City Art Gallery

Installation image: Martino Gamper with bookbinder, part of Post Forma (2015), Yorkshire Sculpture Triangle project for British Art Show 8, Photo credit: Holly Blaxill
Installation image: Martino Gamper with bookbinder, part of Post Forma (2015), Yorkshire Sculpture Triangle project for British Art Show 8, Photo credit: Holly Blaxill
Simon Fujiwara, Hello (film still) 2015
Simon Fujiwara, Hello (film still) 2015
Rachel Maclean, Feed Me, Scene 12, 2015, HD video, Courtesy the artist and Film and Video Umbrella (FVU), Copyright Rachel Maclean, 2015.
Rachel Maclean, Feed Me, Scene 12, 2015, HD video, Courtesy the artist and Film and Video Umbrella (FVU), Copyright Rachel Maclean, 2015.
Installation image: British Art Show 8 at Leeds Art Gallery, (Stuart Whipps, The Kipper and the Corpse, 2015), 2015, Photo credit: Jonty Wilde Photography Ltd.
Installation image: British Art Show 8 at Leeds Art Gallery, (Stuart Whipps, The Kipper and the Corpse, 2015), 2015, Photo credit: Jonty Wilde Photography Ltd.

本サイト内の関連ページ

関連サイト