ドリュー・ヘメント
ドリュー・ヘメント

「デジタル・クリエイティブ・カンファレンス」

スピーカー:ドリュー・ヘメント(フューチャーエブリシング ファウンダー/イマジネーションランカスター アソシエート・ディレクター)

ブリティッシュ・カウンシルの主催により、2011年2月12日と13日の2日間に渡って開催された「デジタル・クリエイティブ・カンファレンス」。アートの実践者とアート機関にとって、デジタル技術によって生み出される新たなチャンスとは何か、を問いかけるものであった。

私の見解では、今日のデジタルカルチャーは自らの境界線を破壊し、デジタル系の団体やアーティスト達は以前よりも強い影響力を持つ。文化、R&D、ビジネスなどセクターの垣根を跨いで、スピーディーにそして革新性に富んだ方法で仕事をこなしているように思う。

カンファレンスでは、ビル・トンプソンがアートとテクノロジーの未来についての基調講演を行った後、私のほうから、デジタル革新の話や、FutureEverythingの活動を例に、この領域においてアート団体がいかに積極的に活動の幅を広げることが可能か、そして私たち自身が、アートとフェスティバルを運営する組織から、いかにしてデジタル革新の中で活発な取り組みを行う組織へと成長したのかについての話をした。

また、カンファレンスでは、産業界からのアートの自立性を損なわせるためではなく、アートと商業の間のグレーゾーンの中で試みられているさまざまな戦略的な取り組みに光を当てるため、どのように私たちはこの二項対立を越えたところに進んでいくことが可能かといった点についても言及された。

カンファレンスには、刺激的な日本人アーティストやアート関係者が参加していた。素晴らしいアーティストでもある真鍋大度氏が所属し、アートと商業の両方のセクターで驚くべき作品を制作しているライゾマティクスもそのひとつだ。

真鍋氏は、クライアントが関わらないアートの仕事ではより大きな自由があるが、商業的な仕事が自分の創造性を刺激し、アートの仕事にフィードバックされており、それらが表裏一体であると述べていた。

カンファレンスではこのほかに、クレア・レディントン、ダンカン・スピークマン、ジム・リチャードソンから英国で起こっている重要な事例の紹介があった。また森美術館の南條史生氏、YCAMの竹下暁子氏、メディア・アーティストの八谷和彦氏などの日本を代表するアーティストや組織、キュレーターからの意見も聞くことができた。

デジタルな創造性はあちこちに存在するが、それはアートなのだろうか?

デジタルな創造性やメディアアートの特性とは、すべてがコピー、リミックス、プログラム、そしてネットワークが可能であるという点であろう。それらの特徴があらゆるアートと革新に不可欠になるのか、それとも独立した生命と歴史を持ったフォームを生み出すのかは、時間が経てば答えが出ると思う。

境界線を破壊する者達は、アートをその枠の外へと連れ出している。そのようなデジタルの創造性は、アートの外側に存在するもの(outside art)ではなく、またアートを除いたもの(without it)でもなく、アートとともに外に向かうもの(outwith art)と言えるのではないか。メディアアートは、アートとの間にしばらく複雑な関係が続いている。アートを新しい方向へと導き、共に速いスピードで走り、どこまで行けるのか見てみようじゃないか。

森美術館の南條史生氏は、今日のこのような状況を「アートが自らの領域を拡張している」と表して、カンファレンス全体の雰囲気を捉えた。その話が出る前に、私と南條さんは互いにヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻としてのアート」という概念から投げかけられたに問いに対する答えを探し続けていると知った。(*1)

日本では、メディアアートのなかに、ビデオゲーム、マンガ、アニメが含まれている。その一例がデバイス・アートで、アーティスト達はアート作品でありつつ、商業的で大量生産されるプロダクトでもあるデバイスを制作している。FutureEverythingは、2006年に岩井俊雄氏とヤマハが開発したTENORI-ONを大々的に使ったライブ・パフォーマンスを行い、結果的にヤマハはFutureSonicの協力で、日本国内ではなく、ロンドンとマンチェスターで商品のワールド・ロウンチを行うことになった。

欧州では、メディアアートはビデオアートから誕生した。そして、現在では、アートと社会とテクノロジーの新たな関係性を探求している。

日本のメディアアートは、商業サイドとのスムーズな関係が長年続いていて、欧州に比べて“クラフト”との関係性も近い。そうした状況は現在見直されてきているのではないだろうか。

デジタル時代はまだ歴史が浅いので、どのような作品が標準となり得るのか、議論の余地がある。厳密な分類分けは、もう少し先延ばしにすべきだ。おそらく私たちは、アートのムーブメントを他の情報をカテゴリー分けするようなやり方、つまり、分類分けではなく、タグ付けの方法で名付けるべきなのではないだろうか。

しかし、規律やひとつの専門に深く傾倒することも可能だろう。これこそが、いまだにその意味を探るデジタル・アートフォームの形と、深みのある会話に頻繁に登場する“建築”に代表される、より確立したフィールドが強く共鳴し合う理由なのかもしれない。

デジタル文化のいくつかの側面は間違いなく深いレベルでアートと社会を変容させている。たとえば、オープンソースが、いくつかのアートワークの中に秘められた哲学であり、また、我々の知的財産の捉え方における変化の一部でもあるように。

カンファレンスでは、ひとりの人間や、ひとつの組織が、ひとつのことを行っているような時代がどのように終わりを遂げ、どのようにさらなる挑戦やより素晴らしいチャンスがもたらされるのかといった点も議題となった。

自分のセクター以外の人たちと新たな方法で仕事をする場合、自分が何をし、何に情熱を持っているのかを明確に表現する必要がある。分かりやすく、完結に言葉で表現できるか、インプットをどのようにアウトプットに変換するか、価値ある提案の本質とは何か。これは、他人のために暗号を解き明かす翻訳作業のようなもので、新たな道を切り開き、自分たちがコラボレーション可能な未来を示す、クリエイティブな作業でもある。

こうした作業が、私たちを新たなコラボレーター、そして新たな観客の元へと導いてくれる。

人々は、積極的な観客、つまり“以前は観客として知られていた人々”について語ることが多い。忘れられがちだが、そこには“Lurkers”と呼ばれ、隠れるように潜んでいる人々がいる。彼らは見えない観客であり、あらゆるものを変えてしまうのだ。地球のほとんどを創り上げている暗い問題のように、彼らの重力がオンラインライフを形成している。

デジタルな観客は、いつも直接的に相互に関わりあう訳ではないかもしれない。彼らは、自分の情報を他人とは共有したくないのかもしれない。私たちは、面と向かってでもなく、直接質問をぶつける訳でもない、“ウェブをスクラップする”という、今までとはまったく違う関係性と理解で彼らと知り合うのだ。

仕事の進め方やツールを使う上で、迅速であることは重要であろう。また、日常によくある従来の技術を使うことも興味深い。そうすることで、技術への特別な思いは消え、人々から自由を奪ってしまう最新の技術に対する恐怖を取り去ることができる。

デジタル技術は、アートの実践者やアート機関のために、チャンスだけでなく、数多くの挑戦も創り出した。商業的なパートナーシップの上でアートの自立性を保つことは、決して簡単ではないのかもしれない。大切に扱われてきたコンセプトと働き方に対する挑戦がそこにはあり、新しいトレーニングや評価方法も必要とされるだろう。機敏さ、変化の速度、そして、サイロ・シンキング(*穀物を貯蔵する塔状建築物のように、他と作用せず、独立した考えを持つこと)を打ち破ることが、公的なセクターや古典的な考えを持つ企業にいる人々を恐れさせることができるのだ。

FutureEverythingにおいて、アートやキュレーションの実践がどのように変化したかというひとつの例が、2009年に発表したプロジェクト「Climate Bubbles」(*2)だ。これは、「環境2.0 デジタル革新ラボ」で開発されたもので、ありがちなギャラリー・インスタレーションではなく、誰もが自分の好きな時間と場所を選んで使用できるキットだった。そして、“アーティスト”には、気象庁の科学者、フェスティバル・キュレーター、そして、自分が開催するフェスティバルからアートの実践を引き離した状態にするために自らの規則を破る僕自身が含まれた。

このデジタル・クリエイティブ・カンファレンスには、英国で話されがちな文化についての会話とは異なった楽観的な部分と希望があった。沢山のクリエイティブなチャンスがそこにはあり、芽が出始めたデジタル文化、そして挑戦する時代に、ナビゲートすることができる新世代のリーダーが必要とされていることを感じた。

2011年2月
ドリュー・ヘメント

*1:私たちはともにロザリンド・クラウスによる「展開された場における彫刻(Sculpture in the Expanded Field)」(1979年10月出版)を読んだのかもしれない。
*2:Drew Hemment、Alfie Dennen、Carlo Buontempo による「クライメート・バブルズ(Climate Bubbles)」。Futuresonic 2009(現・FutureEverything)の「Environment 2.0」より。

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