Manchester Museumにて(中央の赤い服:Esme Ward氏)

チェンジ・チャレンジ・チャンピオンズ!

吉備久美子(金沢21世紀美術館 エデュケーター)

石川県金沢市が設立した金沢21世紀美術館は今秋開館10周年を迎える。この記念すべき年に、教育普及を担当する私は主に2つの事業:金沢市内の小学校と9年間実施している作品鑑賞活動と、展示企画を初めて担当する。勤続11年目となる今年は継続事業の深化と初挑戦に向けて、「チェンジとチャレンジ」を密かに目標として掲げた昨年度末、ブリティッシュ・カウンシルより今回の交流プログラムへお誘いいただいた。主催者が選出した8つの美術館で教育普及を主に担当するメンバーと英国のアートや美術館が担う役割、教育普及のあり方や地域における連携の現状を視察するという。日英アート関係者が継続的な交流ネットワークの構築と、将来的な協働プロジェクトを模索するミッションもあったが、百聞は一見に如かず、「見て、感じて、考えて、グループで話し合う」スタディーツアーへ参加させてもらうこととなった。

全体を通じて特徴的だったのは英国の文化政策の指針として「GREAT ART AND CULTURE FOR EVERYONE」という概念が各地各所で浸透、機能していること、目的に沿った活動のために横断的協働体制を構築していることだった。2010年の政権交代による大幅な文化予算の削減や学校カリキュラムの変更、2012年のロンドンオリンピックに文化事業を絡めた地域活性の成功など、視察の始まりに首都ロンドンで聞いた内容は北部の主都であるマンチェスターとリバプールでも通底していた。ここでは個人的に一番印象深かったマンチェスターでの1日を中心に振り返りたい。

視察3日目、主催者が「ロンドンにも増してハードスケジュールですが」とマンチェスターの視察予定を紹介してくれた。そこには午前は博物館、午後は美術館へ移動、ランチミーティングや館長への表敬訪問を含む7つの打合せを関係者10名以上が対応してくれるとあり、その内容とボリュームに驚いた。しかしながら、この視察予定を特別に組んでくれたEsme Ward氏の開会挨拶を聞いているうちに、これは貴重かつ大変光栄な機会であると強く認識した。ひとつにはManchester MuseumとWhitworth Art Galleryはマンチェスター大学附属の施設であることが挙げられる。Ward氏は同大学院で教鞭を取っており、学生にとっては専門分野にまつわる実地活動に参加しやすく、両施設にとっては来館者の学びの場を学生とともに維持、運営しやすい環境にある。Ward氏は2館の「Head of Learning and Engagement」も兼務していて、60名を超えるスタッフの業務管理や、博物館と美術館を人々へ身近に感じてもらうための情報を複合的に発信することを担っていた。

マンチェスターは英国で初めて「Age Friendly City(各年代にやさしい都市)」と宣言し、「高齢者にとって住みやすい場所」であることを目指して住民代表と行政側が意見を交換する場を設けている。そのテーマは「交通、住宅、社会保障、保険」そして「文化」の5つに分別されていて、博物館と美術館は高齢者の福祉と健康のために生き甲斐とふれ合いの拠点として活用されていた。Ward氏の肩書きにある「Learning」という単語について、ロンドンの複数の施設で「教育普及」の英語における意味合いが「Education:教えられることで増える知識や技量」から「Learning:主体的に学び取る参加型の活動の生成」へ移行していることを耳にしていた。マンチェスターでは展示会場やボランティアの活動という館内見学の様子だけでなく、改装中に町中のパブで「Pub Crawl(はしご酒の意)」と題した作品展示とイベントを開催し、コースター型のフライヤーで告知したり、来館を促進するための館外活動名を「Coffee, Cake, and Culture」と題したり、プログラムの内容、名称、そしてデザインワークそれぞれが「文化は人々の生活に身近な存在である」ことを表していた。極めつけは文化活動のアドバイザーを務める高齢者メンバーの名称を「Ambassador(大使)」から「Cultural Champion」へ変更し、彼らの発信力や行動力を奨励していると聞いた時だった。視察参加者からはどよめきと笑いが起きたが、後日辞書で調べると、「チャンピオン」は英国北部の方言として「一流の/素敵な」という意味の形容詞でもあることがわかり、命名の妙味をさらに感じた。

我々の英国滞在中、安倍首相の欧州訪問に合わせて「日本の官僚が“Age Friendly”のマンチェスターを視察」というニュースがBBCで流れた。50万人都市のマンチェスターが文化支援も含む住民ニーズに応えながら国際都市としての評価も得ようとしている実情を見て、46万人都市の金沢から参加した私は公共の社会教育施設としての美術館の可能性、アートと人が出会う場の構築の意義、そこに関わる専門職としてプログラム運営はもちろんのこと、その価値を明示していく必要性を再認識した。

 年度始めの多忙な時期に刺激的な学びの場へと送り出してくれた我が職場、日英の架け橋としてこれからの親睦と進展のためにご尽力いただいたブリティッシュ・カウンシルの湯浅さまと須藤さま、現地通訳の澤田さま、この好機を提供してくれた広く英国の皆さまへ、末筆ながら感謝の意を表したい。今回の視察を経た「チャンピオンズ」の一員として、この貴重な経験を金沢21世紀美術館の活動へ反映、貢献していくことが、次なる私の「チェンジとチャレンジ」になるであろう。

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