Manchester Museum による病院へのアウトリーチプロジェクト「Museum Comes to You」について説明するスタッフ

ネットワークとパートナーシップで元気になる私と美術館

半澤紀恵(東京ステーションギャラリー)

当館は、全展示室を使って年間6本の企画展を実施している。常設展示室や自由な空間はなく、多くはないスタッフでそれぞれさまざまな仕事を分担している。例えば自分の場合、主に教育普及、収蔵品、館内環境(空調・害虫)、活動報告の制作などを担当している。このような状況はおそらく国内の美術・博物館では珍しいことではないだろう。こうしたなかでどうすればバランスを考慮しながら効果的に当館で教育普及活動ができるのかを自分の課題として捉えている。この研修では、英国の美術館の考え方や工夫などを知ることによって、自分の問題意識を考えるためのヒントが見つかるかもしれないと考えた。他の参加者が長く教育普及に携わってこられた方々だったなか、経験不足な新参者ではあったが、研修で得たことの当館ならではの活かし方ができるのではと考え、参加に挑んだ。

研修での訪問館は組織・設備ともに大規模な館がほとんどであったため、当館の状況とはまったく違う。しかし、英国では数年前の政権交代や大幅な文化予算削減のため、どの館も資金確保に苦慮していて、戦略的に取り組む必要性があるという印象を受けた。そのため、文化関連の公的資金以外に、プロジェクトによっては福祉・医療保険などの機関から資金を確保したり、大学などの教育機関とパートナーシップを組んだりして外部資金・人材をうまく活用していた。また、地方の美術・博物館と連携することで、ノウハウを共有し教育普及活動のネットワークを作っていた。こうしたパートナーシップの構築で外とつながることで自館の活動を強化させている点は、非常に参考になる。また活動の評価を外部と協働し、社会にもたらす効果や意義を言語化しビジュアル化したりすることによって、資金提供者に伝わりやすいように可視化していている点も重要なポイントだと考える。これは外部への効果もさることながら、内部で教育普及活動の意義や価値を分かち合うのにも非常に効果的である。

ここで印象的だったパートナーシップの事例を2件紹介したい。(1)Manchester Museum(MM) "CULTURE SHOTS"プロジェクトにおける医療機関、研究者とのパートナーシップ:研究機関は美術館との共同プロジェクトを研究の一環と位置付けることで研究費を得られ、美術館側も連携することで外部ソースを活用し、館の活動を充実化させている。(2)Manchester Whitworth Art Gallery (WAG) 認知症患者とその介護者向けのAPP開発:これはまだ試行中のプロジェクトだが、高齢化社会への美術館のアプローチのひとつとして、美術館および連携した博物館が持つ収蔵品を活用し、タブレット端末を使って認知症患者とその介護者のためのアプリを美術館と大学、そしてシステムエンジニアなどが連携して開発していた。美術館側の資金的な持ち出しは少ないと担当者は語っていた。

こうした活動の根幹にあるのは、「社会のために美術・博物館は何ができるのか」という考えで、それを基にプログラムやプロジェクトをデザインし、実行していくにあたってそれぞれが持つ課題を、外部機関とパートナーシップを築くことによって克服し、館の持つ資源を活用しながら効果的に社会にアプローチしていた。こうした姿勢や考え方は非常に印象的で、特にマンチェスターの各館では、スタッフの仕事の仕方自体が柔軟で、創造性豊かでクリエイティブなのを感じ、多いに刺激になった。ここでマンチェスターの事例だけになってしまったのは、個人的にMMとWAGのラーニング&エンゲージ部長のエスメ・ワード氏に強く親近感を覚えたからだ。というのは、移動中に彼女から「この館に来たとき教育普及担当は自分一人だった」と聞いたからだ。今、彼女は2館で約60人のスタッフを統括している。教育普及の可能性と広がりを実感することができた。

研修全体を通して分かったのは、英国では教育普及活動が美術館活動の根幹と位置づけられていること、そして4~5年ほど前から組織のなかで教育普及部門が「エデュケーション」(教える)から「ラーニング」(主体的に学ぶ)と名称を参加者側の視点にシフトして替えていることなどである。パートナーシップによる美術・博物館活動の充実と強化についても、館の根幹として教育普及を位置づけているからこそであり、活動をわかりやすくシンプルな言葉で、且つビジュアルを意識して伝える側に立ったアピールをすることで、館の存在意義を提唱していた。それは外に向けてだけではなく、中のスタッフとも価値を共有するのに効果がある。

組織の改編や名称変更など、研修で見聞きしたことをそのまますぐに取り入れることはできないが、自館の活動を振り返り、参考にしたい考え方や姿勢などを、まずは自分が担当している仕事に取り入れていくことから始めたい。2014年12月は東京駅が開業して100周年の記念の年。当館では秋からそれを記念した展覧会を実施する。まずはプレ企画として《スペシャル・オープン・ウィーク》と題し、駅舎創建当時のレンガ壁を活かした当館の空間自体を主題とした期間(11月18日~30日)を設ける。まずは自分が担当するこの機会に今回の研修を活かし、企画のコンセプトを「エデュケーションではなく、来館者にラーニングを体感してもらいたい」としてみた。限られた予算ではあるが、外部とパートナーシップを組んだり、他館とのネットワークを活かしたりして、ソフト(作品)だけではなくハード(建物)のリソースを活用した一例として実施し、企画を通して当館の存在意義を外と内に向けて提唱していきたいと考えている。

最後に、研修にお声がけいただきすばらしいプログラムを組んでくださったブリティッシュ・カウンシルと英国訪問先の関係各位、そして常に刺激とインスピレーションを与えてくださった他のメンバーに感謝の意を表したい。この研修に参加したことで、教育普及の可能性を肌で感じることができ、自信につながったこと、そしてここで生まれたネットワークが、私の活力になったことを強調しておきたい。

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